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「人見知りの王子」

【前書き】


いつも読んでいただきありがとうございます。


最近は台風の話題をよく耳にするようになりましたね。


私の住んでいる地域は今のところ大きな影響はなさそうですが、進路にあたる地域の方はどうかお気をつけください。


備えられるものは備えて、安全第一でお過ごしいただけたらと思います。


それでは今回のお話も楽しんでいただければ幸いです。

 中央議会場へ向かう途中。


 人間側の宿泊棟では、朝からちょっとした騒ぎになっていた。


「ルシアン様! お待ちください!」


「聖女様にご迷惑ですよ!」


 侍女達が慌てて追いかける。


 だが、その中心にいる小さな王子は全く気にしていなかった。


「美優ー!」


 勢いよく扉が開く。


 突然の来訪に美優は目を瞬かせた。


「ルシアン様?」


 第二王子ルシアン。


 まだ幼い王子は、そのまま美優の腰へぎゅっと抱きついた。


「会いたかった!」


(このガキまた来た)


 美優は内心で顔を顰める。


 だが、もちろん表情には出さない。


「あら、まあ」


 嬉しそうに微笑む。


「ここまで来てくださったんですか?」


 優しく頭を撫でる。


 ルシアンは満足そうに笑った。


「だって美優に会いたかったんだもん!」


 後ろから追いついた侍女達が頭を下げる。


「申し訳ございません、聖女様」


「どうしても会いたいと仰られまして……」


 美優は穏やかに首を振った。


「気にしないでください」


「私は大丈夫ですよ」


 その言葉に侍女達は安堵する。


 周囲にいた貴族達も感心したように頷いた。


「さすが聖女様ですな」


「本当にお優しい」


 そんな声が聞こえてくる。


(まあ、悪くないわね)


 子守は面倒だ。


 だが。


 こうして勝手に評価が上がるのなら利用しない手はない。


 ルシアンは上機嫌のまま美優の隣を陣取った。


 その様子を見ていたレオニスは苦笑する。


「まったく」


「仕方のない奴だな」


 だが、その目は優しい。


 ルシアンは歳の離れた弟だ。


 小さな頃から大切にしてきた。


 そんな弟がここまで懐くのだから。


 レオニスの中で美優への好感はさらに増していた。


「ルシアンは人を見るからな」


 ぽつりと呟く。


「やはり美優は特別なのだろう」


 美優は恥ずかしそうに微笑んだ。


◇◇◇


 やがて会談の時間となる。


 人間側が席につく中。


 魔族側の一団が入室してきた。


 ヴァルド。


 オズワルド。


 ラルフ。


 アーバイン。


 そして。


 最後にフィラが姿を見せる。


 ルシアンがぴたりと動きを止めた。


「ルシアン様?」


 美優が首を傾げる。


 だが次の瞬間。


 ルシアンは美優の後ろへ隠れてしまった。


 顔だけを少し覗かせる。


 人見知りする子供そのものだった。


「ははっ」


 レオニスが笑う。


「初めて会う相手ばかりだからな」


「緊張しているんだろう」


 人間側からも微笑ましそうな視線が向けられる。


 一方。


 フィラは少し驚いた顔をしていた。


 幼い子供。


 しかも人見知り。


 思わず頬が緩む。


 そっとルシアンの前へ歩み寄った。


 そして。


 膝を折る。


 幼い王子と目線を合わせるために。


「初めまして」


 柔らかな声だった。


「フィラと申します」


 空色の瞳が優しく細められる。


「よろしくお願いします、ルシアン殿下」


 ルシアンは瞬きをした。


 フィラは急かさない。


 怖がらせない。


 ただ穏やかに待っている。


 その姿を見つめて。


 ルシアンはもじもじと指を絡めた。


「……はじめまして」


 小さな声。


「はい」


 フィラは嬉しそうに微笑む。


 それだけで安心したように、ルシアンは少し前へ出た。


「……魔族のお姉さん」


「はい?」


「きれい」


 フィラがぱちりと目を瞬く。


 周囲から小さな笑いが漏れた。


 子供らしい率直な感想だったからだ。


 だがルシアンは真剣だった。


「それに優しい」


「ありがとうございます」


 フィラは少し照れたように笑う。


 その笑顔にルシアンも笑った。


 まるで本当の姉弟のような光景だった。


「フィラお姉ちゃん」


「はい」


「またお話してくれる?」


 フィラは迷うことなく頷いた。


「もちろんです」


 その返事にルシアンは嬉しそうに笑う。


 レオニスも微笑み。


 人間側も和やかな空気になる。


「良かったな、ルシアン」


「うん!」


 元気よく返事をする弟を見て、レオニスは安堵した。


 美優もまた微笑む。


 少しだけ面白くない気持ちはあったが。


 それ以上に。


 今の空気は自分にとって悪くない。


 聖女としての評価も戻りつつある。


 ならば問題ない。


 中央議会場には久しぶりに穏やかな空気が流れていた。


 誰もが。


 人見知りの王子が優しい魔族の少女に懐いた。


 ただそれだけの出来事だと思っていた。

【後書き】


今回は少し穏やかな回となりました。


前話まで緊張感のある場面が続いていたので、久しぶりに肩の力を抜いて書けた気がします。


そして新しく登場したルシアン。


小さな子供らしい無邪気さや人懐っこさを書いていて、とても楽しかったです。


フィラも子供には弱いので、初対面からすっかりお姉ちゃんをしていましたね。


個人的には、相手が子供だからと上から接するのではなく、自然に膝を折って目線を合わせるフィラらしさが書けてお気に入りです。


また、美優も今回は少し評価を取り戻すことができました。


物語の中では敵対する立場ではありますが、簡単に失脚するような人物ではないので、これからも色々と動いてくれると思います。


次回も引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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