「消えない違和感」
【前書き】
いつも読んでいただきありがとうございます。
最近、ブックマークを付けてくださる方が少しずつ増えていて、とても嬉しく思っています。
評価や感想、ブックマークはもちろんですが、何より「続きを読もう」と思っていただけることが本当に励みになっています。
皆様のおかげで、今日も続きを書こうという気持ちをいただいています。
まだまだ拙い部分も多いですが、少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもフィラ達を見守っていただけたら嬉しいです。
会談終了後。
人間側宿泊棟の自室で、サイラスは一人窓辺に立っていた。
夕暮れの空は赤い。
だが彼の頭の中にあるのは、今日の会談のことだった。
机の上には開いた書類。
けれど一文字も読めていない。
「……おかしいな」
ぽつりと呟く。
何がおかしいのか。
それを整理するように目を閉じた。
今日。
結界師達は倒れた。
人間側も。
魔族側も。
精鋭と呼ばれる者達ばかり。
その全員が膝をついた。
そして。
フィラ・ヴェルレインは、その負荷を受け止めた。
「魔力が高い……だけでは説明がつかない」
それは認める。
オズワルドの娘だ。
規格外の魔力量でも不思議ではない。
だが。
今日倒れた魔族の結界師達もまた一流だった。
決して無能ではない。
そんな彼らが耐えられなかった負荷を。
あの少女は当然のように支えていた。
しかも。
「慣れていた……」
あの反応。
結界を戻した時の顔。
驚いてはいなかった。
焦ってはいた。
だが。
あれは。
初めて知った者の顔ではない。
最初から知っていた者の顔だ。
つまり。
あれが日常だった。
「……なら」
疑問が生まれる。
もし本当に。
結界の負担がフィラを苦しめていたのなら。
オズワルドが許すだろうか。
ヴァルドが見過ごすだろうか。
サイラスは首を振った。
あり得ない。
あの二人は。
異常なほどフィラを大切にしている。
娘だから。
婚約者候補だから。
そんな生易しいものではない。
フィラが少し顔色を悪くするだけで。
すぐに気づくほどだ。
そんな二人が。
命を削るような負担を放置するはずがない。
「では何故……」
フィラは弱ったのか。
そこで。
ある光景が脳裏をよぎる。
中央議会場。
初めて会った頃のフィラ。
警戒はしていた。
だが。
魔道具の話になると目を輝かせていた。
楽しそうだった。
笑っていた。
元気だった。
その後。
美優が現れた。
そして。
フィラの顔色は急激に悪くなった。
議会に来なくなった。
部屋へ閉じこもった。
美優が現れる度。
怯えた。
ヴァルドが庇った。
オズワルドが連れ帰った。
まるで。
危険なものから守るように。
「……聖女殿か」
思わず口に出る。
だが。
すぐに眉を寄せた。
違う。
正確には。
「聖女殿が現れてから何かが起きている」
だ。
美優が悪人だとは思わない。
いや。
少なくとも断定はできない。
だが。
好ましい人物とも思えなかった。
王宮にはいた。
こういう女性は。
他人を下げて自分を良く見せる者。
弱者を演じて味方を増やす者。
美優も似ている。
だが。
それだけなら珍しくない。
「そんな人物が聖女なのか……」
それが引っかかる。
聖女。
人々を導く希望。
そう呼ばれる存在。
そのわりに。
あまりにも俗っぽい。
あまりにも計算高い。
そして。
あまりにも人が傾きすぎる。
サイラスは今日の議会を思い返した。
美優が口を開く。
それだけで。
空気が変わる。
まるで。
最初から答えが決まっていたように。
「気のせいか……」
証拠はない。
全て推測だ。
それでも。
違和感だけは消えない。
窓の外を見る。
夕暮れの向こう。
魔族側宿泊棟が見えた。
あそこに。
フィラがいる。
あの少女は。
何を隠しているのだろう。
何を恐れているのだろう。
そして。
誰が彼女を追い詰めているのだろう。
「フィラ・ヴェルレイン……」
小さく呟く。
返事はない。
ただ。
胸の中の違和感だけが。
静かに大きくなっていた。
【後書き】
今回は大きな事件の後の、少し静かな回となりました。
67話では結界の件で大きく状況が動きましたが、すぐに全てが解決するわけではありません。
人の考えも評価も、一気には変わらないものです。
だからこそ今回は、それぞれが抱いた違和感や想いを書いてみました。
個人的にはサイラスの視点が印象的でした。
彼は決して感情だけで人を判断する人物ではありません。
だから美優に対しても、フィラに対しても、見たものや感じた違和感を一つずつ積み重ねて考えています。
まだ真実には辿り着きません。
それでも、少しずつ近づいていく。
そんな変化を書けたらと思っています。
そしてフィラもまた、少しずつ前へ進み始めています。
まだ怖いものは怖い。
逃げたくなる時もある。
それでも大切な人達のために踏み出そうとする姿を書いていけたらと思います。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
次回もお付き合いいただけたら嬉しいです。




