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「守りたいから」

いつも読んでいただきありがとうございます。


今回は会話や流れをどうするか少し悩んだ回でした。


最近は相談を聞いてくれる友人と「ああでもない、こうでもない」と話しながら物語を組み立てることが増えています。


一人で考えていると煮詰まってしまうこともありますが、誰かに話してみると「あ、それだ」と思うこともあって、不思議なものですね。


今回はそんなやり取りの中から生まれたお話です。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

 中央議会場へ向かう足取りは重かった。


 久しぶりの会談参加。


 それだけで胃が痛い。


 美優がいる。


 そう思うだけで身体が強張った。


「帰りたくなったら帰るぞ」


 隣を歩くオズワルドが言う。


 フィラは小さく見上げた。


「無理をする必要はない」


「……はい」


 頷く。


 すると反対側を歩いていたヴァルドが足を止めた。


「俺もいる」


 短い言葉だった。


 けれど。


 その一言だけで少しだけ呼吸が楽になる。


 フィラは小さく微笑んだ。


「……ありがとう」


 それでも怖いものは怖い。


 だが。


 逃げたくない。


 昨日、自分でそう決めたのだから。


◇◇◇


 会談が始まる。


 普段ならヴァルドの左隣にはオズワルドが座る。


 だが今回は違った。


 中央にヴァルド。


 その左隣にフィラ。


 さらに左隣にオズワルド。


 まるで二人がフィラを守る壁のようだった。


 その席順を見て、美優の顔が一瞬だけ歪んだ気がした。


 だがすぐに消える。


 いつもの愛らしい笑顔。


 周囲は気づかない。


 フィラだけが身体を震わせた。


 怖い。


 やっぱり怖い。


 視線を合わせることも出来ない。


 そんなフィラを見て、美優は少し寂しそうに微笑んだ。


「大公女様」


 柔らかな声。


 フィラの肩が跳ねる。


「体調はもうよろしいのですか?」


「……はい」


 何とか答える。


「良かったです」


 美優は嬉しそうに微笑んだ。


「ずっと心配していたんです」


 人間側から同意するような声が上がる。


「聖女様は本当にお優しい」


「和平のためにも尽力してくださっている」


「大公女様ももう少し交流をなさっては」


 フィラの肩がさらに縮こまる。


 怖い。


 視線が怖い。


 空気が怖い。


「交流を避けられる理由でもあるのですかな?」


 人間側の貴族が言った。


「聖女様があれほど歩み寄っておられるのに」


 オズワルドの目が細められる。


「理由ならある」


 低い声。


 会場が静まる。


「俺は過保護なんでな」


 誰も笑わない。


 オズワルドは真顔だった。


「可愛い娘を男どもに見せたくない」


 静かな声。


 だが有無を言わせぬ圧がある。


 魔族達は知っている。


 この男が娘に関して本気であることを。


 だから誰も茶化さなかった。


 すると。


「私も同意見です」


 今度はヴァルドだった。


 会場の空気がさらに張り詰める。


「以前より大公と大公女へ婚約を申し込んでいる身ですので」


 フィラは思わず顔を上げた。


「えっ!?」


 真っ赤になる。


 だが。


(わ、私を守るために言ってくれてるんだよね……!?)


 そう思うしかなかった。


 オズワルドもヴァルドも自分を庇ってくれている。


 そのための方便だ。


 そうに違いない。


 けれど。


 人間側の空気は変わらなかった。


「それとこれとは別問題でしょう」


「聖女様を傷つけた事実は変わりません」


 フィラが息を呑む。


 その瞬間。


 美優が悲しそうに目を伏せた。


「やめてください」


 小さな声。


「私は責めたいわけではないんです」


 そう言いながら涙を浮かべる。


「ただ……」


 震える声。


「少し酷いことを言われてしまって……」


 会場がざわつく。


 人間側から同情の視線が向けられた。


「聖女様……」


「お気の毒に」


 フィラの身体が強張る。


 昔と同じだった。


 美優が泣く。


 みんなが味方になる。


 自分だけが悪者になる。


 胸が苦しい。


 息が出来ない。


 逃げたい。


 帰りたい。


 その時だった。


 テーブルの下で。


 右手が温もりに包まれた。


 ヴァルドだった。


 何も言わない。


 ただ手を握ってくれる。


 反対側。


 今度は左手。


 オズワルドの大きな手だった。


 幼い頃から何度も安心させてくれた手。


 涙が出そうになる。


 守られている。


 ずっと。


 今も。


 そして。


 サイラスのことも思い出した。


 人間側で一人、庇ってくれた。


 皆が。


 自分を守ろうとしてくれている。


 その瞬間。


 胸の奥に温かなものが広がった。


 怖い。


 それでも。


 この人達を守りたい。


 その想いだけが強くなる。


 フィラは震える息を吐いた。


「……私の方こそ」


 会場が静まる。


 フィラは怖かった。


 今にも泣きそうだった。


 それでも。


「美優さんに不快な思いをさせたのでしたら……謝ります」


 小さく頭を下げる。


 そして。


 顔を上げた。


「……でも」


 声が震える。


 言葉も詰まる。


 それでも。


「酷いことなど言った覚えはありません」


 静寂。


 フィラは続けた。


「私は中央議会場へ来る時は、いつもヴァルドと一緒でした」


 事実。


「美優さんも、いつも王太子様とご一緒でした」


 事実。


「私達が二人きりになったことはありません」


 事実。


 だから。


「ですから……」


 怖い。


 美優が怖い。


 でも。


「そのようなことを言った覚えはありません」


 はっきりと言った。


 ヴァルドが静かに頷く。


「その通りです」


 低い声。


「私は聞いたことがありません」


 そして。


 視線を王太子へ向けた。


「レオニス殿下は?」


 会場の視線が集まる。


 王太子が固まった。


「それは……」


 言葉が出ない。


 聞いていない。


 見てもいない。


 だから答えられなかった。


 会場に沈黙が落ちる。


 美優は目を見開いた。


 おかしい。


 いつもなら。


 これで終わるはずだった。


 なのに。


「美優様?」


 人間側の貴族が戸惑うように口を開く。


「それはいつ頃のお話でしょうか」


「え……?」


「どのようなお言葉だったのですか?」


 責める声ではない。


 だが。


 確認している。


 今までならなかったことだ。


 美優の胸がざわついた。


 どうして。


 なんで。


 信じてくれないの?


 会場の空気が変わっていた。


 誰も美優を嘘つきだとは思っていない。


 それでも。


 何かがおかしい。


 そう感じ始めている。


 魔族側ではさらに顕著だった。


 顔を見合わせる者がいる。


 考え込む者がいる。


 そして。


 サイラスは静かにフィラを見つめていた。


 怯えている。


 それは今も変わらない。


 声も震えていた。


 それでも。


 彼女は逃げなかった。


 守られるだけの少女ではない。


 守りたい者のために立ち上がれる人だった。


(ああ、強いな……)


 サイラスは心の中でそう呟く。


 その視線の先で。


 フィラはまだ震えていた。


 けれど。


 もう俯いてはいなかった。

今回はフィラにとって大きな一歩の回でした。


美優が怖くなくなったわけではありません。


今でも怖いし、逃げたいし、出来ることなら関わりたくない。


それでも、大切な人達を守りたいという気持ちが恐怖を上回りました。


だからフィラは立ち上がれました。


個人的には、今回のフィラは強くなったというより「勇気を出した」のだと思っています。


震えながらも。

言葉に詰まりながらも。

それでも自分の言葉で伝えた。


そんなフィラを書けて良かったです。


そしてヴァルドやオズワルド、サイラスもそれぞれフィラを支えてくれました。


一人では踏み出せなかった一歩も、支えてくれる人がいるから踏み出せる。


そんな回になっていたら嬉しいです。


次回は少しずつ変わり始めた空気がどう動くのかを書いていけたらと思います。


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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