↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
65/89

第「逃げたくない」

今回は少し書き方に迷いながらのお話になりました。


元々拙い文章ではあるのですが、今回は特に「周囲の空気」や「見えない圧力」をどう表現するか悩みながら書いていました。


フィラ達の状況がじわじわ苦しくなっていく回なので、読んでいてしんどく感じる部分もあるかもしれません。


それでも、その中で支えてくれる人達や、フィラ自身の変化を書きたくて頑張りました。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

 最初は、本当に小さな違和感だった。


「聖女様はお優しい方だな」


「和平のために、あれほど歩み寄ってくださっているのに……」


 そんな声を聞くことが増えた。


 美優は困ったように笑い。


 少し寂しそうに俯き。


「大公女様と仲良くなりたいだけなんです」


 そう語る。


 だから周囲は自然と美優へ同情した。


 特に人間側は顕著だった。


 聖女である美優を悪く言う者などいない。


 むしろ。


「大公女様は少々閉鎖的すぎるのでは?」


「聖女様が気を遣っておられるのに」


 そんな空気へ変わっていく。


 問題は。


 それが少しずつ魔族側へも広がり始めたことだった。


「和平のためにも、もう少し交流をなさっては……」


 遠慮がちに口にした若い魔族貴族へ。


 ヴァルドの視線が鋭く細められる。


 その瞬間、男はびくりと肩を震わせた。


「……っ、し、失礼しました」


 慌てて黙り込む。


 だが。


 一人消えても、また別の誰かが同じことを言い出す。


「聖女殿も歩み寄ろうとしておられますし」


「ずっと部屋へ閉じこもっていては、余計に誤解を招くかと……」


「……娘へ何か?」


 静かな声だった。


 だがオズワルドが口を開いた瞬間、その場の空気が凍りつく。


 誰もそれ以上は言わなかった。


 けれど。


 向けられる視線は少しずつ変わっていく。


 ヴァルドは眉を顰めた。


 おかしい。


 あまりにも急激に、美優へ好意的になりすぎている。


 ラルフも苦い顔をしていた。


「……気持ち悪いな」


「ええ」


 ツェリも小さく頷く。


「空気が変わりすぎてる」


 アーバインも静かに目を伏せた。


「昨日まで普通だった方達まで、聖女寄りになっています」


 全員、違和感には気づいている。


 だが。


 証拠がない。


 しかも厄介なのは、誰も“悪意”で言っていないことだった。


 本気で善意なのだ。


 本気で、美優が可哀想だと思っている。


「そこまで大変な役目でもないでしょう」


「他にも結界師はいるのだから」


 何も知らない声が耳に入る度、ヴァルドは胸の奥で怒りを押し殺した。


 反論したかった。


 フィラがどれほどの負担を抱えているか。


 どれほど無理をしているか。


 全部叫んでしまいたかった。


 だが。


 それだけは出来ない。


 結界へフィラが深く関わっていることは、ごく一部しか知らない。


 公表すれば、今度はフィラへ負担が集中する。


 だからオズワルド達は黙るしかなかった。


 そんな中。


 人間側では、サイラスが孤軍奮闘していた。


「聖女様があれほど歩み寄っておられるのに」


「大公女様は失礼ではありませんか?」


「それは違うでしょう」


 静かな声だった。


 だが空気が止まる。


 サイラスは冷静なまま続けた。


「少なくとも私は、大公女様へ非があるとは思えません」


「事情も知らず、一方だけを責めるべきではありません」


 だが。


「サイラス様は大公女様を庇いすぎでは?」


「聖女様の方が余程和平へ尽力しておられる」


「魔族側も過保護すぎるのでは?」


「だから大公女様が増長する」


 サイラスは静かに眉を寄せた。


 話にならない。


 気づけば誰もが、美優を“守るべき聖女”として扱っている。


 その時だった。


 廊下の角で、フィラは足を止める。


 聞こえてきたのは、サイラスの声だった。


「大公女様は、あの方を本気で恐れている」


 真剣な声だった。


 フィラは小さく目を見開く。


 ちゃんと見てくれていた。


 怖い。


 今でも美優を見るだけで身体が震える。


 逃げ出したくなる。


 部屋へ閉じこもってしまいたくなる。


 でも。


 その後、別室で話し合うヴァルド達の声まで聞いてしまった。


「……これ以上隠せば、フィラが完全に悪者になる」


 ヴァルドの声は苦しげだった。


「だが表へ出せば、また傷つく」


 オズワルドも低く言う。


「もう限界です」


 アーバインが静かに目を伏せる。


「和平維持を理由に、大公女様を表へ出せという声が増えています」


「っ……!」


 フィラはぎゅっと服を握った。


 自分のせいで。


 ヴァルドが。


 お父様が。


 サイラスまで。


 みんな苦しそうだった。


 昔もこうだった。


 優しい言葉で追い詰められ。


 気づけば周囲全員が離れていく。


 美優はいつも、こうやって周囲を味方にしていった。


 でも。


 今回は違う。


 ヴァルド達は、自分を悪く言わない。


 守ろうとしてくれている。


 それがわかるからこそ。


 これ以上、苦しませたくなかった。


「……わかりました」


 部屋の空気が止まる。


 振り返った先に立っていたのはフィラだった。


 まだ顔色は悪い。


 それでも。


 震える足で前へ進む。


「フィラ!?」


 ヴァルドが目を見開く。


 オズワルドも表情を変えた。


 フィラは小さく息を吸う。


 怖い。


 それでも。


「会談に参加いたします」


 静かな声だった。


「だから……ヴァルド達を責めないでください」


 一瞬、誰も言葉を失う。


 ヴァルドは苦しそうに眉を寄せた。


「無理しなくていい」


「違うの」


 フィラは小さく首を横へ振る。


「怖いよ……今でもすごく怖い」


 声が震える。


 それでもフィラは前を向いた。


「でも」


 ぎゅっと服を握る。


「大好きな人達が苦しむ方が、もっと嫌なの」


 オズワルドの目が静かに細められる。


 ヴァルドも何も言えなかった。


 フィラは逃げていない。


 自分で立とうとしている。


 それがわかったからだ。


 フィラは小さく震えながら、それでもはっきりと言った。


「……もう、逃げたくない」

今回はかなり「美桜時代の再現」に近い空気のお話でした。


優しい言葉で追い詰める。

周囲を味方につける。

気づけば自分だけが悪者になっている。


フィラにとっては、まさに昔を思い出す状況です。


でも、一番違うのは「今回は一人じゃない」こと。


ヴァルド達は最初から最後までフィラを信じています。

それがフィラにとって、立ち向かう力になりました。


そしてサイラス。

今回はかなり孤軍奮闘していました。


人間側にいながら、それでもフィラを庇い続けるのは、彼にとっても簡単なことではありません。


それでも見てくれていた。

ちゃんと「怖がっているのはフィラの方だ」と気づいてくれた。


フィラにとって、それも大きかったと思います。


最後に「逃げたくない」と言えたフィラは、きっと少しずつ前へ進めているのかなと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。