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「会談再開」

【前書き】


一度体調を崩してしまうと、なかなか本調子に戻りませんね……。


最近は気温差や気圧の変化も激しいので、皆さまもどうか無理をなさらずお過ごしください。

 翌日。


 中央会談場には再び、ルクレティア王国とノクスヴァルト帝国の代表者達が集まっていた。


 昨日の騒ぎが嘘のように、空気は静かだ。


 少なくとも表面上は。


「昨日は本当に申し訳ありませんでした……」


 最初に頭を下げたのは美優だった。


 伏せられた瞳。


 控えめな声音。


 昨日とはまるで別人のように、しおらしい。


「私、人間と魔族の皆さんに仲良くなってほしくて……」


 遠慮がちにヴァルドを見る。


「ヴァルド様は魔族側の代表だから、早く打ち解けなきゃって焦ってしまったんです……」


 その言葉に、レオニスがすぐ反応した。


「そうだったのか、美優……!」


 感動したように表情を明るくする。


「流石は聖女だ! 両国の未来を考えていたのだな!」


「そんな……」


 美優は困ったように微笑んだ。


「私、まだまだ未熟なので……」


 周囲の人間達も次々頷く。


「なんとお優しい……」


「聖女様は平和を願って……!」


 完全に納得していた。


 一方。


 ノクスヴァルト帝国側の空気は冷えていた。


 ラルフは無言。


 アーバインも表情を変えない。


 ヴァルドに至っては、美優を見ようともしない。


「…………」


 ただ淡々と資料へ目を通している。


 その横で、オズワルドが静かに口を開いた。


「謝罪は聞いた」


 低い声。


「ならば会談を進めるぞ」


 完全に話を切った。


 レオニスが僅かに眉を顰める。


「オズワルド殿、美優は平和のためを思って――」


「王太子殿」


 低い声が遮った。


 空気が一瞬で張り詰める。


「今は休戦と交流のための会議だ」


 紅い瞳が冷たく細められる。


「余計な話は要らん」


 静かな声音だった。


 だが、それだけで場を黙らせる圧がある。


 レオニスが言葉を詰まらせた。


 美優も唇を引き結ぶ。


 一方サイラスは、内心で小さく息を吐いた。


(……完全に警戒されている)


 当然だ。


 昨日の騒ぎはあまりにも悪かった。


 特に。


 あの銀色の少女が倒れた瞬間。


 ノクスヴァルト帝国側の空気は一変した。


 ヴァルドも。


 オズワルドも。


 必死だった。


 まるで何より大切なものを失いかけたように。


 思い返す。


 真っ青な顔。


 震える身体。


 ヴァルドへ倒れ込むように崩れた姿。


 胸がざわつく。


 無事なのだろうか。


 気になって仕方がない。


 だがサイラスは感情を表へ出さなかった。


 今は会談を成立させる方が先だ。


 ここで感情的になれば、せっかく進み始めた和平が壊れる。


「では昨日の続きですが」


 サイラスが自然に会話を繋ぐ。


 空気を整えるような滑らかな声音だった。


 そのまま会談は再開される。


 休戦後の交易。


 国境付近の管理。


 魔物討伐の協力体制。


 話は昨日より遥かに進んだ。


 レオニスが感情で口を挟みそうになる度、サイラスが自然に軌道修正する。


 ヴァルドもオズワルドも、サイラス相手なら話を進めた。


 少なくとも。


 和平について真剣に考えているのは伝わるからだ。


 しばらくして。


 会談の合間。


 サイラスが何気ない調子で口を開いた。


「そういえば昨日、体調を崩された方は」


 自然な問いだった。


「大丈夫だったんですか?」


 一瞬。


 空気が止まる。


 ヴァルドの視線が僅かに冷えた。


 だがオズワルドが先に答える。


「……娘だ」


 サイラスの目が僅かに見開かれた。


「失礼しました」


「構わん」


 オズワルドは淡々と続ける。


「結界維持の負担が大きかっただけだ」


 それ以上は語らない。


「少々、無理をさせすぎた」


 サイラスは静かに頷いた。


「そうでしたか」


 だが内心では引っかかる。


 結界師。


 しかもオズワルドの娘。


 だからあれほど慌てていたのか。


 納得はした。


 けれど。


(……本当にそれだけか?)


 昨日の少女の怯えは、単なる過労には見えなかった。


 だが踏み込める空気ではない。


 それに今は。


 和平を前へ進める方が重要だった。


 一方、美優は内心で小さく眉を寄せていた。


(娘……?)


 昨日から気になっている。


 銀色の少女。


 ヴァルドも。


 オズワルドも。


 明らかに特別扱いしていた。


 それが気に入らない。


 しかも。


 今日はヴァルドが一度も自分を見ない。


(何なの……)


 ちゃんと“いい子”にしているのに。


 皆が好きな美優を見せているのに。


 なのにヴァルドは靡かない。


 それどころか。


 まるで拒絶している。


 美優は無意識に爪を立てた。


 一方その頃。


 ノクスヴァルト帝国側宿泊棟。


 フィラはヴァルド達に言われた通り、大人しく部屋で過ごしていた。


 窓際に座りながら、ぼんやり外を見つめる。


 まだ怖い。


 美優がいる。


 この世界に。


 けれど。


『何があってもフィラの味方だ』


 昨夜の言葉を思い出す。


 ヴァルドの声。


 オズワルドの温かな手。


 胸の奥が少しだけ温かくなった。


 美桜だった頃には無かったもの。


 フィラはそっと、自分の胸元を握る。


 そして静かに目を閉じた。

【後書き】


今回は会談再開回でした。


美優は“皆が求める聖女”として立ち回っていますが、ヴァルドとオズワルドには逆に不信感しか与えていません。


一方でサイラスは、和平を成立させるために冷静に動きつつも、倒れたフィラのことがかなり気になっています。


そしてフィラは、まだ怖がりながらも、少しずつ二人の言葉を支えに出来るようになってきました。


ゆっくりですが、確実に変わり始めています。

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