「銀色の少女」
【前書き】
5月だというのに夏のような暑さですね。
皆さんは体調、大丈夫でしょうか?
私は毎年この時期になると体調を崩しがちなので、今年こそ気をつけたいと思っています。
水分補給と睡眠、大事ですね……!
休戦会談は、美優とレオニスが席を外してからようやくまともに進んだ。
国交。
交易。
停戦後の境界管理。
細かな問題は山ほどある。
だが少なくとも。
感情論ではなく、現実的な話が出来た。
サイラスは静かに息を吐く。
(……やっと前に進んだ)
正直かなり疲れた。
レオニスと美優を刺激せず。
ノクスヴァルト帝国側の不信感を抑え。
双方の顔を立てながら会談を進める。
簡単なことではない。
だが。
ヴァルドもオズワルドも、サイラス相手ならきちんと話をした。
特にオズワルドは高圧的ではあるが、筋の通る相手には応じる。
だから会談自体は、想像以上に前向きなものになった。
――なのに。
(何故ここにいる……)
会談場を出た瞬間。
サイラスは頭痛を覚えた。
「ヴァルド様ぁ♡」
美優だった。
しかも完全に待ち伏せである。
ご機嫌取りをしていたレオニスへ適当に理由をつけ、先回りしていたらしい。
そのまま勢いよくヴァルドへ抱きつく。
「さっきはごめんなさい〜」
甘えた声。
「わたし、ヴァルド様と仲良くしたくてぇ♡」
瞬間。
ヴァルドの表情から完全に温度が消えた。
「触るな」
低い声。
次の瞬間、美優の身体が突き放される。
「きゃっ!?」
美優がよろめく。
ヴァルドがここまで露骨な拒絶を見せるのは珍しかった。
それほどまでに不快だった。
一方美優は。
一瞬信じられない顔をした後、みるみる表情を歪める。
「何でぇ!?」
ついに怒りが滲んだ。
「仲良くしようとしただけじゃなのにぃ!」
「美優様!」
サイラスが慌てて宥めに入る。
だが美優は止まらない。
今まで男たちは皆、自分を受け入れてきた。
優しくして。
甘やかして。
望むものを差し出してきた。
なのにヴァルドは違う。
それが、美優の癇に障った。
一方。
オズワルドも完全に苛立っていた。
「騒ぐな」
冷たい声。
「ここは貴様の機嫌を取る場所ではない」
空気が張る。
サイラスは内心で頭を抱えた。
(頼むからこれ以上悪化させるなよ……)
その時だった。
「……どうしたの?」
小さな声。
その場の全員が振り返る。
そこにいたのは。
銀色の髪を揺らした少女。
フィラだった。
魔族側の出入り口近くで待っていたのだろう。
騒ぎを聞きつけ、心配して来てしまったらしい。
ヴァルドとオズワルドの顔色が一瞬で変わった。
「フィラ!?」
「何故来た!」
美優など完全に意識から消える。
二人は即座にフィラへ駆け寄った。
その必死さに、フィラはきょとんと目を瞬かせる。
「え……?」
「来ちゃ駄目だ」
ヴァルドが珍しく焦った声を出す。
「戻ろう」
オズワルドまで完全に保護モードだった。
その様子を見た美優の中で、何かが弾ける。
(何よ……あの女)
自分には冷たい。
なのに。
あの銀色の少女へは、露骨なほど特別。
イラついた。
酷く。
その時。
フィラの視線が、美優を捉えた。
瞬間。
心臓が大きく跳ねる。
ドクン――。
「……っ」
息が詰まる。
頭が痛い。
怖い。
嫌だ。
なのに目が離せない。
胸の奥から、ぐちゃぐちゃな感情が溢れてくる。
「な……んで……」
震える声。
次の瞬間。
フィラの身体が崩れ落ちた。
「フィラ!」
ヴァルドが真っ先に抱き留める。
顔色は真っ青だった。
「フィラ! しっかりしろ!」
必死な声。
オズワルドの表情からも余裕が消える。
「医務官を呼べ!」
周囲が一気に慌ただしく動き出した。
ラルフとアーバインも即座に動き出す。
そしてヴァルドは、フィラを抱き上げる。
「戻るぞ」
低い声。
完全に美優など眼中にない。
そのままノクスヴァルト帝国側の建物へ消えていく。
残された美優は。
ぎり、と爪を噛んだ。
「……何よ、あの女」
嫉妬で顔が歪む。
一方。
サイラスは立ち尽くしていた。
銀色の少女。
ずっと気になっていた存在。
その少女が、真っ青になって倒れた。
胸がざわつく。
追いかけたい。
無事か確認したい。
だが。
人間である自分は、あちら側へ入れない。
サイラスは無意識に拳を握り締めた。
【後書き】
ついにフィラと美優が出会ってしまいました。
置いて来たはずの過去が迫って来ています。
突然現れた美優に、フィラは大きな衝撃を受けます。
そしてヴァルドとオズワルドはかなり慌てています。
特にヴァルドは完全に余裕が消えています。
ここから少しずつ、止まっていたフィラの過去が動き始めます。




