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「休戦会談」

ついに始まった休戦会談。


ですが、思っていた以上に空気が重くなりました。


特にノクスヴァルト帝国側は「聖女」の存在にかなり警戒しています。

フィラを隠したヴァルドとオズワルドの判断は正しかったかもしれません。

 完成した中央会談場には、重たい空気が満ちていた。


 長い机を挟み。


 魔国ノクスヴァルト帝国とルクレティア王国が向かい合う。


 ルクレティア王国側代表は第一王太子レオニス。


 その隣には、異世界から召喚されたという聖女――美優が座っていた。


 一方。


 ノクスヴァルト帝国側代表はヴァルド。


 その隣へオズワルドが座り、さらにラルフとアーバインが控えている。


 なお。


 フィラは不参加だった。


『今回は留守番』


 そうヴァルドに言われた時、フィラはかなり不満そうだった。


『でも……』


『駄目』


 珍しく即答だった。


 しかもオズワルドまで頷いている。


『今回は大人しくしていなさい』


『……うぅ』


 完全に保護対象だった。


 当然である。


 ヴァルドは人間側へフィラを見せたくなかった。


 特に今回の“聖女”とやらには。


     ◇


「こちらが聖女、美優です」


 レオニスが誇らしげに告げる。


 その瞬間。


 魔国側の空気が僅かに変わった。


(……は?)


 ラルフは表情を崩さないまま内心で眉を顰める。


 アーバインも静かに目を細めた。


 一方。


 ヴァルドとオズワルドは、完全に警戒を強める。


 聖女は一時代に一人。


 それは古くから知られている事実だ。


 そして彼らは知っている。


 本物の聖女が誰なのかを。


 だからこそ。


 “異世界から召喚された聖女”。


 その言葉自体が有り得なかった。


「はじめましてぇ♡」


 美優がにこりと笑う。


 だがその視線は、ほとんどヴァルドへ向いていた。


 紅い瞳。


 整った顔立ち。


 圧倒的な存在感。


(やっぱりすごいイケメン……)


 美優は内心かなり浮かれていた。


 しかも皇太子。


 地位まで完璧。


 欲しくなるのも当然だった。


 一方ヴァルドは、限りなく無表情だった。


 むしろ少し不機嫌に近い。


 理由はわからない。


 だが本能的に思う。


 フィラへ近づけたくない、と。


     ◇


 会談は始まった。


 本来ならば。


 休戦条件。


 国交樹立。


 交易。


 非常に重要な話し合いである。


 だが。


「ヴァルド様はどう思われますか?」


 やたらと美優が話へ入ってくる。


 しかも内容よりヴァルドへ興味津々だった。


 レオニスも完全に美優へ夢中である。


「流石です、聖女様!」


「美優様のお考えは素晴らしい!」


 デレデレだった。


 その後ろで、サイラスが静かにため息を吐く。


(またか……)


 もう慣れていた。


 一方魔国側。


 空気が冷えている。


 特にオズワルドは露骨だった。


「王太子殿」


 低い声。


 場の空気が張る。


「此度の会談は、両国の今後を決める重要な場だ」


「……っ」


「もう少し落ち着いて進めてもらおうか」


 静かな声音。


 だが圧が凄まじい。


「こちらとしても、友好を真剣に考えているのでな」


 正論だった。


 レオニスが顔を引き攣らせる。


「い、いやこれは……!」


 一方美優は。


「オズワルド様ひどい〜……」


 うる、と目を潤ませた。


 普段ならこれで大抵の男は慌てる。


 だが。


 オズワルドには一切効かなかった。


 むしろ。


(気持ち悪いな)


 内心かなり辛辣である。


 ヴァルドに至っては完全無反応。


 ラルフとアーバインは無言。


 ただただ。


(レヴァリア王国、大丈夫か?)


 という目をしていた。


 レオニスだけが慌てる。


「み、美優、泣かないでくれ……!」


 会談空気は最悪だった。


 そこで。


「レオニス王太子殿下」


 静かな声が割って入る。


 サイラスだった。


「ここから先は細かな実務協議になります」


 柔らかな笑み。


 だがその目は冷静だった。


「聖女様も長旅でお疲れでしょう」


「えぇ〜?」


 美優が不満そうな声を漏らす。


 だがサイラスは穏やかに続けた。


「数字や条約の話ばかりです。美優様には少々退屈かと」


「うーん……」


「殿下も、少し聖女様を休ませて差し上げては?」


「そ、そうだな!」


 レオニスは勢いよく頷いた。


「美優様! 少し休まれてください!」


 本当はもっとヴァルドと話したい。


 だが。


 あまりレオニスを蔑ろにしても、自分の立場が悪くなる。


 それくらいの計算は美優も出来る。


「じゃあ少しだけ休もうかなぁ♡」


 にこりと笑う。


 そして立ち上がる直前。


「またお話してくださいね、ヴァルド様♡」


 甘えた声。


 だがヴァルドは。


「……必要があれば」


 それだけだった。


 かなり冷たい。


 だが美優は逆に燃えた。


(絶対落としてみせる……!)


 一方。


 サイラスは小さく息を吐く。


 ようやく空気がまともになった。


 その様子を見たラルフは、僅かに目を細める。


(苦労してるな)


 かなり同情を含んだ視線だった。


 そして。


 美優が退室した瞬間。


 魔国側全員が内心で同じことを思っていた。


(フィラを絶対近づけるな)


 と。

サイラスがかなり苦労人になってきました。


そしてヴァルドはずっと「フィラを絶対近づけたくない」と思っています。


なおフィラ本人は留守番中です。

多分ちょっと拗ねています。

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