「戦場の聖女」
ついに開戦です。
今回は戦場でのフィラと、それを見つめるサイラスと美優、それぞれの視点を書いてみました。
同じものを見ていても、見え方は全く違うようです。
「……来る」
最初に異変へ気づいたのはライオだった。
その瞬間。
森の奥から膨大な殺気が溢れ出す。
「敵襲!!」
怒号が響いた。
次の瞬間、人間軍が森から雪崩れ込んでくる。
剣戟。
悲鳴。
魔法の閃光。
静かだった森が、一瞬で戦場へ変わった。
「前線維持!!」
ヴァルドの声が響く。
黒馬を駆る姿は圧倒的だった。
敵兵を斬り伏せながら、冷静に軍へ指示を飛ばしていく。
一方、オズワルドは巨大な魔物すら容易く斬り捨てていた。
ライオも笑いながら敵陣へ飛び込み、次々と兵を吹き飛ばしていく。
だが。
フィラには彼らほどの武力はない。
だからこそ、自分に出来ることをする。
「結界を!」
光が広がる。
前線を守る膜。
さらにフィラは負傷者の元へ駆け寄り、次々と回復魔法を施していった。
「まだ動かないでください!」
「フィラ様……!」
「大丈夫です、すぐ治しますから」
白い装束が泥と血で汚れていく。
怖くないわけではない。
剣が振るわれる度に肩が震える。
悲鳴に胸が苦しくなる。
それでも。
苦しむ人を放っておけなかった。
◇
一方。
王国軍後方。
安全な陣地では、大型の監視魔道具が戦場を映し出していた。
本来は戦況把握のためのもの。
だが。
「ねぇ、あの黒髪の人もっと映して」
美優の一言で、映像は簡単に切り替わる。
周囲の男たちは誰も逆らわない。
「は、はい聖女様!」
嬉しそうに操作する。
魔道具へ映るのは、黒馬を駆るヴァルド。
圧倒的な強さ。
美しい顔。
皇太子としての威厳。
「……誰?」
「あれは魔国の皇太子ヴァルドです!」
「隣はヴェルレイン大公!」
「魔国最強とも言われています!」
男たちは競うように説明する。
美優の目が変わった。
皇太子。
大公。
強くて、地位も高く、顔もいい。
(欲しい)
自然にそう思った。
その横で、サイラスは静かに映像を眺めていた。
本来、公爵家の跡取りである彼が戦場へ出る必要はない。
だが、王国の現状を自分の目で確かめるため、美優へ近づき、その側近のような立場で同行していた。
最初はサイラスも、ただ戦況を見ていただけだった。
だが。
映像の端へ、白銀の少女が映り込む。
「……?」
自然と目が止まった。
結界を張り。
負傷者へ駆け寄り。
泥だらけになりながら、必死に戦場を走っている。
ヴァルドたちの近くにいるせいで、時折魔道具へ映り込むのだ。
最初はそれだけだった。
だが。
何度も目に入る。
気づけばサイラスは、ヴァルドでもオズワルドでもなく、その少女を探すようになっていた。
怖いはずだ。
それなのに逃げない。
誰かを守るため、必死に前へ出ている。
「……何で」
思わず小さく呟く。
何故そこまで出来るのか。
何故そんな必死になれるのか。
理解できない。
なのに。
不思議と目が離せなかった。
戦場は血と泥に塗れている。
それなのに。
その少女だけが、まるで光を纏っているように見えた。
◇
戦いが一段落した頃。
フィラは負傷者たちの元へ向かっていた。
味方の治療。
魔族兵。
帝国軍。
次々と回復していく。
その途中。
少し離れた場所で倒れている兵へ、フィラは視線を向けた。
人間軍の捕虜兵。
瀕死だった。
周囲の帝国軍騎士たちがざわつく。
「フィラ様……?」
「敵兵です!」
だがフィラは迷わず駆け寄った。
しゃがみ込み、静かに光魔法を使う。
致命傷だけ塞ぐ。
だが完全には治さない。
意識も戻さない。
戦えない程度に留める。
その姿を、サイラスは魔道具越しに見つめていた。
「……何で敵まで」
理解できない。
普通なら放置する。
死んでも当然だ。
それなのに。
フィラは迷わなかった。
ライオは慣れた様子で捕虜兵を運んで並べていく。
ツェリもフィラへ水を差し出した。
ヴァルドは静かに護衛へ徹している。
オズワルドも止めない。
まるでそれが当然であるかのように。
その光景から、サイラスは目を離せなかった。
理解できない。
なのに。
眩しかった。
戦場の中で。
泥に汚れながら、それでも誰かを助けようとする少女が、どうしようもなく輝いて見えた。
それが恋の始まりだった。
◇
一方。
美優は退屈そうに映像を眺めていた。
興味があるのはヴァルドとオズワルドだけ。
だから、何度か映り込んでいた白銀の少女も、最初は視界にすら入っていなかった。
だが。
ヴァルドとオズワルドが、ある一点を優しく見守っていることに気づく。
その視線の先。
白銀の少女。
しかも。
敵兵まで助けている。
美優は眉を顰めた。
「……何よ、あの女」
気に入らない。
ヴァルドも。
オズワルドも。
あんな女を気にかけている。
それが何より気に入らなかった。
「偽善者みたい」
吐き捨てるように呟く。
だが。
その目はしっかりとフィラを捉えていた。
今回はサイラスの恋の始まり回でした。
最初はただ戦場で必死に動くフィラへ目が止まっただけ。
ですが、敵兵まで助ける姿を見て、気づけば完全に目で追うようになっています。
サイラス自身、何故そこまで惹かれるのかまだ理解していません。
ただ戦場の中で、フィラだけが輝いて見えていました。
逆に美優は、ヴァルドとオズワルドから入っています。
なのでフィラを見た理由も「あの二人が見ているから」。
そして敵兵を助ける姿も、美優には“偽善”にしか見えません。
同じ光景でも、見ている人間でまるで違う回になりました。




