「愚者の末路」
皆さんは五月病、大丈夫でしょうか?
私は結構気分が重いです……。
休み明けって、どうしても身体も気持ちもついていかないですよね。
でも、小説を書いている間は不思議と気が晴れるというか、物語の中にいる時間は色々忘れられる気がします。
なので今回も楽しく書かせていただきました。
少しでも皆さんにも楽しんでいただけたら嬉しいです!
黒く染まった謁見の間に、重い呼吸だけが響いていた。
崩れた床。
砕けた柱。
天井すら半ば崩壊し、紫黒い闇が煙のように漂っている。
その中心で、皇帝は嗤っていた。
「素晴らしい……素晴らしいぞ……!」
両腕を広げ、闇を纏う姿はもはや人ではない。
肌には黒い紋様が浮かび、濁った瞳は狂気に染まっている。
「これが力だ……!これこそが余の求めた力!!」
闇が爆ぜる。
床を侵食し、空気を腐らせるような邪悪な力。
だが。
その闇へ、淡い銀色の光が差し込んだ。
「……っ」
フィラが胸元で両手を組む。
優しい光が広がり、皇帝の闇を少しずつ削り取っていく。
「鬱陶しい……!」
皇帝が腕を振るう。
闇の槍がフィラへ向かう。
だが、その前へヴァルドが飛び込んだ。
轟音。
漆黒の剣が闇を叩き斬る。
「フィラに近づくな」
低い声。
鋭い金の瞳が皇帝を射抜く。
皇帝が舌打ちした。
「半端者風情が……!」
「何とでも言え」
ヴァルドは冷たく返す。
皇帝への憎悪はある。
母を奴隷として弄び、死なせた男。
自分の人生を歪めた元凶。
本来なら、この手で殺してやりたい。
だが。
ヴァルドは知っている。
最も多くを奪われたのは。
最も長く苦しみ続けたのは。
——オズワルドだ。
「師匠!!」
ヴァルドが叫ぶ。
その声に応えるように、オズワルドが剣を構えた。
紫の瞳が静かに皇帝を見据える。
怒号もない。
激情もない。
けれど。
その奥にあるものは、凍てつくほど深い。
「貴様……その目……!」
皇帝が顔を歪める。
オズワルドは答えない。
脳裏を過るのは。
血塗れで倒れていた父。
泣き崩れる母。
奪われたシルヴィア。
呪いを刻まれたあの日。
孤独。
怒り。
失った年月。
全て。
全て、この男が奪った。
「父さま!」
フィラの声。
銀の光が広がる。
優しい光はオズワルド達を包み込み、皇帝の闇だけを削り落としていく。
「何故だ……!?何故余の力が……!」
皇帝が焦りを滲ませる。
ヴァルドが地を蹴った。
一瞬で距離を詰め、強烈な斬撃を放つ。
轟音。
皇帝の闇が裂ける。
「ぐっ……!」
その隙。
オズワルドが前へ出た。
皇帝が目を見開く。
「貴様ぁぁぁ!!」
闇が荒れ狂う。
だが。
フィラの光がそれを阻む。
ヴァルドの剣が押し返す。
二人が道を切り開く。
その先を、オズワルドは静かに進む。
一歩。
また一歩。
皇帝の前へ。
「何故だ……何故余に逆らう!!」
叫ぶ皇帝。
「余こそが世界を統べる覇者となる存在だぞ!!」
オズワルドは静かに剣を構えた。
「……違う」
低い声。
「貴様はただ、多くを踏み躙っただけだ」
皇帝の顔が歪む。
「黙れぇぇぇぇ!!」
闇が膨れ上がる。
だが、その瞬間。
「今です!!」
フィラの光が強く輝いた。
闇が浄化される。
ヴァルドが皇帝を押さえ込む。
「師匠!!」
道が開く。
オズワルドの脳裏に、シルヴィアの笑顔が浮かんだ。
あの日。
共に笑っていた穏やかな日々。
奪われなければ続いていたはずの未来。
その全てを終わらせた男が、今目の前にいる。
オズワルドは静かに目を閉じ。
そして。
「——終わりだ」
剣を振り下ろした。
閃光。
皇帝の身体が斜めに裂ける。
「ぁ……」
呆然とした声。
次の瞬間。
皇帝の身体から闇が噴き出した。
「何故だ!?余こそが至高の存在になれるはずだった!!」
崩れ落ちながら皇帝は叫ぶ。
「そう言ったではないか!!答えろ!!」
その瞬間だった。
『……随分と無様だな』
「……っ!?」
皇帝の目が見開かれる。
頭の奥へ直接響く、昏い声。
ぞわり、と闇が揺れた。
「な、何故だ……!余は……!」
だが。
声は皇帝の言葉を聞いていない。
『……なるほど』
低い声。
どこか感心したような響き。
『消えたはずの魂が、まだ残っていたか』
皇帝の顔が歪む。
「何を言って——」
『忌々しい』
空気が凍る。
圧倒的な悪意。
それは皇帝へ向けられたものですらない。
『だが、良い』
闇が愉しげに蠢く。
『ようやく見つけた』
「待て!余を置いていくな!!」
皇帝が叫ぶ。
縋るように。
必死に。
だが。
『役目は終わりだ』
淡々とした声。
そこには情など欠片もない。
「やめろ……!」
皇帝の身体が崩れていく。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
絶叫が響く。
だが。
闇はもう答えなかった。
そして。
皇帝の身体は完全に崩れ落ち、黒い塵となって消えていった。
静寂。
重苦しい空気の中。
オズワルドは静かに剣を下ろした。
その背へ。
そっとフィラの手が触れる。
「……父さま」
静寂が落ちる。
長い戦いが——終わった。
ついに皇帝との決着まで辿り着きました。
ここまで長かったですね……!
最初からずっと裏で動いていた皇帝でしたが、最後は「選ばれた存在」ではなく、ただ利用されていただけだったという形になりました。
そして最後に出てきた“声”。
あれが何なのか。
“アレ”とは何なのか。
少しずつ、この世界のもっと深い部分も出していけたらと思っています。
次回は戦いの後のお話になる予定です。
シルヴィアや皇都の状況、そして三人がどう向き合っていくのかも書いていきたいです。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!




