「聖光の代償」
【前書き】
前回はかなり時間を超過した上に、前書きと後書きまで忘れておりました……。
GW最終日は完全に現実逃避しておりましたね。
でも始まってしまえば、結局いつも通りの日常です。
仕事も始まりましたし、気持ちを切り替えてまた頑張っていこうと思います。
小説の方も気合を入れて更新していきますので、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!
眩い光が、すべてを包み込んだ。
暴れ狂っていた黒龍の動きが、ぴたりと止まる。
咆哮が途切れ、広間を満たしていた禍々しい気配が、静かに削ぎ落とされていく。
光は優しく、しかし確実に——呪いを侵食していった。
黒い鱗が軋み、ひび割れ、崩れ、剥がれ落ちる。
その奥から現れたのは——
「……っ、あ……あああああああああッ!!」
悲鳴のような咆哮。
それはもはや獣ではない。
人の声。
黒龍がもがく。巨大な体を震わせ、抗うように。
だが——光は止まらない。
優しく、逃がさぬように包み込み、すべてを解いていく。
やがて。
黒き輪郭が崩れ、巨体が縮み、砕けるように消えていく。
最後に響いたのは、長く深い咆哮。
そして——
そこに残ったのは、一人の男。
「……父さま!」
フィラが駆け出す。
倒れ込む身体を抱き止める。
荒い呼吸。だが、その瞳には確かな理性が戻っていた。
「……フィラ……」
かすれた声。
その一言に、フィラの瞳から涙が溢れる。
「父さま……っ」
戻ってきた。
その事実だけで、胸が満たされる。
——だが。
「……素晴らしい」
拍手が響いた。
ゆっくりと、わざとらしく。
場違いなほど楽しげに。
視線が集まる。
玉座。
そこにいる男は——震えていた。
歓喜に。
「やはり……やはりそうか……!」
皇帝が立ち上がる。
その目は、狂気に染まっている。
「聖女……!本物の聖女だ……!!」
フィラの身体が強張る。
視線が絡む。
その瞬間、背筋が凍る。
逃げ場のない、捕食者の眼。
「来い」
低く呟かれた、その瞬間。
足元から、黒い影が伸びた。
「……っ!」
反応が遅れる。
影が絡みつく。
足から、腕へ、身体へと這い上がる。
「いや……!」
振り払えない。
拘束が、強すぎる。
「フィラ!!」
ヴァルドが動く。
だが——
遅い。
黒龍との戦い。
そして、その直後の緊張の解放。
さらに、オズワルドの状態を確認した直後。
一瞬の隙。
それが、致命的だった。
影が一気に引き寄せる。
フィラの身体が宙を引かれ——
そのまま、皇帝の手の中へと収められた。
「……っ!」
腕を掴まれる。
逃げられない。
すぐ目の前にある、狂気の顔。
「……ようやく、手に入れた」
ぞくりとする声。
その身体から、黒いものが滲み出していく。
「やはり……お前は特別だ」
フィラがもがく。
「離して……!」
だが、びくともしない。
その時。
銀の閃光が走った。
「——っ!」
皇帝の身体が、わずかに揺らぐ。
突き立てられた刃。
銀のナイフ。
「……シルヴィア……!」
皇帝の声に、苛立ちが混じる。
その懐に踏み込み、刃を突き立てていたのは——
皇妃。
「皇妃様……!」
フィラが叫ぶ。
その一瞬、拘束が緩む。
だが。
「シルヴィア!ただの飾りが出しゃばるな!!」
怒声と共に、闇が爆ぜた。
弾き飛ばされる。
「っ……!」
シルヴィアの身体が宙を舞い、床へ叩きつけられる。
血が広がる。
動かない。
「……っ!」
フィラの身体から、影が一瞬だけ剥がれる。
自由が戻る。
だが——
「……逃げて……」
かすれた声。
倒れたまま、シルヴィアが手を伸ばす。
「……あの人の……大切な子……」
震える指先が、フィラへ向けられる。
「お願い……」
「皇妃様……!」
駆け寄ろうとする。
だが。
再び影が絡みついた。
「逃がすと思うか?」
皇帝の声が変わる。
低く、濁り、重い。
身体が変質していく。
肌が歪み、白目が黒く染まる。
闇が滲み出し、空気を侵食する。
「……俺こそが……」
圧が空間を歪める。
「世界を統べる覇者となるのだ!!」
背から黒い翼が生える。
完全に、人ではない何かへと変貌していく。
だが——
「フィラ!!」
ヴァルドの声。
はっとして振り返る。
そこにあるのは、迷いのない瞳。
「来い!」
短い一言。
それだけで、理解する。
フィラは頷く。
シルヴィアを見つめ、唇を噛む。
そして——
影の隙を縫い、駆け出した。
ヴァルドの元へ。
その時。
ゆっくりと、オズワルドが立ち上がる。
その瞳には、鋭い光が戻っていた。
「……随分と、好き勝手してくれたな」
低く、静かな声。
だが、その奥にある怒りは凄まじい。
ヴァルドが隣に立つ。
フィラがその背後に。
三人が並ぶ。
対峙するのは——
異形と化した皇帝。
空気が張り詰める。
すべてが、ここで終わる。
そう告げるように——
【後書き】
ついにフィラの力が皇帝に知られてしまいました。
そして、ずっと裏で糸を引いていた皇帝も、ついに完全に異形へと変貌。
オズワルド、ヴァルド、フィラ。
三人が並び立つところまで辿り着けました。
個人的には、フィラを守るために戦っていたヴァルドが、
今度は「フィラが守りたいものを守るため」に戦う形へ変わったのが好きなところです。
次回はいよいよ決戦になります。
最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです!




