「翳りの祝宴」
明日でGWも終わりですね。皆さんは何をして過ごされましたか?
私は見事に引きこもっておりました……。その分しっかり書き進められたので良しとします。
でもさすがに最終日くらいは外に出て、美味しいものを食べて飲んでこようかなと思っています。
そんなわけで、本日もお付き合いいただけたら嬉しいです。
皇都、中央大広間。
高い天井には無数の灯りが輝き、軽やかな音楽と笑い声が満ちていた。
貴族たちが談笑し、皇族たちが優雅に振る舞う。
華やかな祝宴。
ヴァルドの成人を祝うために開かれた、盛大な式典だった。
その賑わいの中へ——三人が足を踏み入れた、その瞬間。
しん、と。
会場が静まり返った。
音楽さえ遠のいたかのように、誰もが言葉を失う。
視線が、一斉に向けられる。
フィラ。
ヴァルド。
オズワルド。
ただ立っているだけで、場の空気を塗り替える存在だった。
最初に目を奪うのはフィラ。
淡く輝く銀の髪と、碧のドレス。
その色は彼女の透明感を際立たせ、動くたびに柔らかな光を纏うようだった。
16歳。
少女の面影を残しながらも、確かに“レディ”へと成長した姿。
その隣に立つヴァルドもまた、強く視線を引き寄せていた。
鍛え上げられた体躯。
無駄のない立ち姿。
フィラと揃えた碧の礼服。
感情を表に出さないその表情が、かえって人の目を惹きつける。
そしてその背後に立つオズワルド。
娘を持つ身でありながら衰えぬ威容。
洗練された佇まいと圧倒的な存在感。
会場中の視線が、三人に集まっていた。
その中で——
ヴァルドは、わずかに位置をずらす。
フィラの前へ。
さりげなく、その身体で視線を遮るように。
「……?」
フィラが小さく首を傾げる。
その視線を受けて、ヴァルドはふっと優しく微笑んだ。
「すごく綺麗だね、フィラ。碧いドレスがとても似合ってる」
柔らかな声音。
その笑顔に、周囲が息を呑む。
無表情で無愛想だと思われていた少年が見せる、初めてのような表情。
「……ありがとう。ヴァルドもカッコいいよ……」
頬を赤く染めながら、フィラが上目遣いに見上げる。
その仕草の愛らしさに、会場の視線がさらに強く引き寄せられる。
オズワルドが静かに口を開く。
「当然だ」
「よく似合っている、フィラ」
「ありがとう、父さま」
穏やかなやり取り。
この場だけが切り取られたような、温かな空気。
その様子を、玉座の上から皇帝が楽しげに眺めていた。
にやりと歪む口元。
だが、その異質さに気づく者はほとんどいない。
ただ——
皇妃。
オズワルド。
そしてヴァルドだけが、わずかな違和感を感じ取っていた。
やがてざわめきが収まり、成人の儀が始まる。
玉座の前に進み出たヴァルドが膝をつく。
その姿を、フィラは静かに見つめていた。
神官の祝詞が響く。
厳かに流れる時間。
やがてそれが終わり——
皇帝が立ち上がる。
剣を抜き、ゆっくりとヴァルドの前へ。
「これでお前も成人だ」
低い声。
そして。
「……さて、祝いをくれてやろう」
剣が、大理石の床へと突き立てられる。
硬い音が響く。
その直後——
紫の光が広がった。
魔法陣が、会場全体を覆い尽くす。
「——っ!?」
悲鳴が上がる。
逃げ場はない。
その中心で。
「……ぐ、っ」
オズワルドの身体が揺れる。
胸を押さえ、顔を歪める。
「父さま!」
フィラが駆け寄ろうとした——その瞬間。
「来るな!」
オズワルドが叫び、フィラを突き飛ばす。
「きゃっ——」
体勢を崩すフィラ。
その身体を——
ヴァルドが即座に受け止めた。
腕の中に収める。
その一瞬。
視線が交わる。
オズワルドと、ヴァルド。
(——あとは頼む)
(——任せてください)
言葉はない。
だが、確かに伝わる。
次の瞬間。
「ああああああああッ!!」
オズワルドの絶叫が響いた。
身体が軋む。
骨が、肉が、魔力が——歪む。
黒い何かが溢れ出す。
輪郭が崩れる。
人の形を、保てない。
膨れ上がる。
裂ける。
変わる。
広間が震える。
柱が軋む。
天井が揺れる。
そして——
現れたのは。
巨大な、黒き龍。
禍々しい鱗。
すべてを呑み込むような圧倒的な存在。
その巨体が広間を押し潰すように広がる。
咆哮が轟いた。
大気を震わせ、恐怖を叩きつけるような咆哮。
会場は完全な混乱に陥る。
貴族も皇族も悲鳴を上げ、我先にと逃げ惑う。
だが——
玉座の上。
皇帝だけが、動かない。
ただ、笑っていた。
狂気に満ちた笑みを浮かべながら。
その視線は——フィラへと向けられていた。
ついに始まってしまいました。
穏やかだった時間が一瞬で崩れる、この瞬間を書くのがとても楽しかったです。
ヴァルドとオズワルドの無言のやり取り、そして黒龍化まで一気に進めました。
ここからは完全に戦闘と覚悟のターンに入っていきます。
次話ではヴァルドの戦いとフィラの決断が描かれていくので、引き続き見守っていただけたら嬉しいです。




