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「交錯する思惑」

せっかくの休み。張り切って書いているのに、昨日はあげる時間が遅れてしまいました。


読んでくださる方のためにも、なるべく同じ時間にあげたいと思っているのですが…なかなか思うようにいかないものですね。


それでも一話一話、大事に書いていますので、今日も楽しんでいただけたら嬉しいです。


 皇都、謁見の間。


 玉座の前に跪くヴァルドと、その後ろに控えるアーバイン。


 この光景も、もはや見慣れたものだった。


 年に幾度も呼び出され、皇帝の機嫌を伺う。


 表向きは皇族としての務め。


 だが実際は——値踏みだ。


 使えるか、使えないか。それだけ。


「ヴァルドよ」


 ゆったりとした声が降る。


「今年で成人であったな」


「はい」


 短く答える。


「ならば例年の生誕祭ではなく、盛大な成人式を開いてやらねばなるまいな」


 恩着せがましい言葉。


「ありがたきお言葉にございます」


 淡々とした礼。


 内心では、どうでもいいと切り捨てている。


 皇都での祝いなど意味はない。


 大公家で、フィラが考えてくれる時間の方が何よりも大切だ。


 だが、それを表に出すことはない。


 皇帝は満足げに頷く。


 アーバインの報告もあり、ヴァルドは感情に乏しいと思われている。


 この程度の反応で疑われることはない。


「そうだな……」


 皇帝がわずかに笑う。


「成人の祝いとして、其方が想いを寄せるフィラとの婚約をオズワルドに打診してみるとするか」


 その瞬間。


 わずかに、ヴァルドの表情が動いた。


 ほんの僅かだが、確かに。


 皇帝の目が細められる。


 見逃さない。


 その視線を受けながら、ヴァルドは顔を伏せた。


 わざと、わずかに動揺を見せる。


「……それが叶えば」


 一拍置いて。


「至上の喜びでございます」


 ほんの少しだけ熱を滲ませる。


 それで十分だった。


 皇帝は満足げに高笑う。


「そうであろうな。…よしよし、下がってよい」


「は」


 ヴァルドは一礼し、そのまま退出する。


 振り返らない。


 表情も変えない。


 だが胸の内では冷ややかに笑っていた。


(……馬鹿だな)


 フィラと共にいたい気持ちは本物だ。


 だがそれは、フィラの意思があってこそ。


 そして認めるのはただ一人——師匠だけだ。


 皇帝の許しなど必要ない。


 謁見の間を出ると、すぐにその思考も切り替える。


 次に備えるために。


――――――――――


 残されたのはアーバイン。


「報告を聞こうか」


「は」


 頭を下げる。


 その姿はいつもと変わらない。


 忠実な臣下。


 だからこそ疑われない。


「オズワルド閣下は変わらずフィラを溺愛しておられます」


「ほう」


「ただし時折、部屋に籠り苦しむ様子も見受けられます」


 真実。


 皇帝は嬉しそうに目を細める。


 人を愛せば呪いがその身を蝕む。


 フィラを愛しながら必死に耐える姿を思い浮かべ、笑いが込み上げてくる。


「ヴァルド殿下とフィラ様は非常に親密で、恋人関係と見ても差し支えないかと」


 半分の真実。


 そう、それがあるから先ほどの婚約がヴァルドの中生を得る餌になる。


「フィラ様は六属性すべてにおいて高い適性を持っております」


 事実。


 ふむ、と首を傾げる。


「ヴァルド殿下の剣の腕は、今やオズワルド閣下に匹敵するほどに」


 これも事実。


 ならば、いずれヴァルドをオズワルドにぶつけるのも面白い。


 そうやって真実と嘘を織り交ぜる。


 ただ一つ——聖女である事実だけを隠して。


 それがこの報告の本質だった。


 アーバインはもう決めている。


 仕えるべき主を。


 あの日、ヴァルドに選ばれた時から。


 皇帝の言葉が落ちる。


「……聖女の証が出ぬな」


 つまらなそうに呟く。


 疑いはあるが確証がない。


 それが苛立ちとなっている。


「下がれ」


「は」


 アーバインは静かに退室した。


――――――――――


 扉が閉まると同時に、隣室から側妃たちが現れる。


 先ほどまで盗み聞きしていたのだろう。


 笑みを浮かべながら皇帝に擦り寄る。


「ずいぶんと使える駒になりましたわね」


「あのはずれ者が」


 侮蔑の言葉。


「我が子の方が優れております。もっと息子にお役目を与えてくださいませ」


 媚びる声。


 皇帝は内心で嗤う。


(愚かな女どもだ)


 表情には出さず、軽く頷く。


「はははは…」


 そして、口元を歪める。


「褒美にフィラとの婚姻でも与えてやれば、もっと役に立つだろう」


 側妃たちが笑う。


「あの娘も半分は人間なのでしょう?」


「お似合いですわ」


 嘲る声。


 だが皇帝の思考は別のところにあった。


(尻尾を出さぬなら……引きずり出せばよい)


 成人式。


 人が集まる場。


 逃げ場のない舞台。


(あのオズワルドが溺愛する娘だ)


 ならば。


 壊せば、必ず動く。


 口元が歪む。


 その目に宿るのは、純粋な悪意だった。

今回は嵐の前の静けさ、というような回になりました。


ヴァルド、アーバイン、そして皇帝。それぞれの思惑が少しずつ動き出しています。


特にアーバインは、完全に立ち位置が定まった回でもありますね。


そして次はいよいよ成人式。


ここから一気に物語が動いていきますので、引き続き見守っていただけたら嬉しいです。

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