「最愛への誓い」
前書き
せっかくGWが始まったのに、天気があまり良くないですね。
外に出るのも少し億劫になりますが、その分こうしてゆっくり物語を書けるのは嬉しいかもしれません。
今回はヴァルド回です。
フィラは、何も隠さなかった。
自分が人間であること。
オズワルドとは本当の親子ではないこと。
そして——聖女であること。
その力は危険で、知られれば狙われる。
だから師匠や大公家の人々が、自分を匿っているのだと。
そう、あっさりと話した。
「……」
最初は、それをそのまま受け取っていた。
だが。
一緒に過ごすうちに、すぐに分かった。
違う。
そんな理由だけで、あの人たちが動くはずがない。
フィラだからだ。
純粋で、素直で、一生懸命で。
放っておけないほど不器用で。
だから皆、守っている。
——愛しているからだ。
「……鈍いな」
思い出して、小さく呟く。
本人だけが気づいていない。
それすら、フィラらしいが。
そして——
あの日。
初めて、その力を見た。
聖女。
強烈な光。
あれほどの力。
正直、驚きはした。
だが。
「……どうでもいい」
小さく吐き出す。
そんなことは、本当にどうでもよかった。
それよりも。
あの後。
倒れたフィラが、熱にうなされて苦しんでいる姿。
あれを見ている方が、よほど辛かった。
胸の奥が、嫌な音を立てる。
あの時。
自分は、動かなかった。
アーバインは敵だと。
皇帝の犬だと。
そう思っていたから。
だから——助けなかった。
「……」
歯を食いしばる。
フィラは、もうとっくに受け入れていたのに。
自分だけが、こだわっていた。
その結果が、あれだ。
フィラを、あそこまで追い込んだ。
——最悪だ。
そして。
もう一つ。
知ってしまった。
師匠にかけられた呪い。
愛する者を、自らの手で殺させる呪い。
それをかけたのが——皇帝だということ。
「……」
息が、静かに冷える。
元から、どうでもいい存在だった。
父などと思ったことはない。
兄や姉も同じだ。
虐げられてきた記憶しかない。
興味も、感慨もなかった。
だが今は違う。
「……邪魔だな」
ぽつりと、零す。
皇帝は。
誰よりも、憎い存在になった。
兄姉も同じだ。
障害でしかない。
フィラを脅かす可能性があるものは、すべて。
排除する対象だ。
視界の端に、あの時の光景が蘇る。
苦しむフィラ。
荒い呼吸。
熱に浮かされる姿。
「……」
あの時。
怖かった。
初めてだった。
あんな感覚は。
——失う。
それだけで、息が詰まった。
胸が締め付けられて、どうにもならなかった。
フィラが苦しむくらいなら、自分が。
本気で、そう思った。
あの時、はっきりと分かった。
フィラは——
ただの“特別な存在”じゃない。
自分にとって。
それ以上の何かだ。
名前をつける必要はない。
だが。
もう、あの頃とは違う。
ただ一緒にいたいだけじゃない。
ただ離れたくないだけでもない。
——守りたい。
この手で。
そう思った時点で。
もう戻れない。
フィラが目覚めた時。
正直、泣きそうになった。
……いや、泣いた。
その後、大公家も領も。
明らかに空気が変わった。
フィラがいるだけで、こうも違うのかと。
「……本当、すごいな」
小さく呟く。
フィラは、自覚していないだろうが。
⸻
教室の扉を開ける。
中にいたアーバインは、顔を上げて——
すぐに立ち上がり、深く頭を下げた。
「ヴァルド殿下……私は——」
顔色は悪い。
目の奥に、迷いと後悔が見える。
当然だろう。
この男も、もう絆されている。
フィラに。
あの性格で、落ちない人間などいない。
そして。
自分のために、フィラが命を削ったこと。
それが、どれほどのものかも理解している。
「……」
ヴァルドは、一瞬だけそれを見て——
すぐに視線を逸らした。
もう、どうでもいい。
こだわる意味はない。
フィラは助かった。
それがすべてだ。
「フィラは助かった」
短く、告げる。
アーバインが顔を上げる。
「くだらないことで悩む暇があるなら——」
一歩、前に出る。
「しっかり俺を育てろ」
はっきりと言い切る。
空気が、変わる。
命令でも、拒絶でもない。
選択だ。
アーバインの目が、わずかに見開かれる。
理解したのだろう。
自分は、切り捨てられない。
——使われるのだと。
「……承知いたしました」
静かに、頭を下げる。
それでいい。
こいつは使える。
ならば使う。
皇族という立場も。
この血も。
すべて。
師匠の呪いを解くために。
フィラを守るために。
⸻
夜。
自室へ戻る前に、足は自然とフィラの部屋へ向かっていた。
静かに扉を開ける。
ベッドの上。
フィラは、眠っている。
「……フィラ」
小さく、名前を呼ぶ。
それだけで、胸の奥がわずかに緩む。
この名を、こうして呼ぶことを許されたこと。
それがどれほど特別なことか——
自分は、よく知っている。
前なら、起きて待っていた。
「おやすみ」と言うまで、起きていた。
だが今は違う。
まだ本調子ではないのだろう。
その寝顔を見て、わずかに安堵する。
顔色は、もう悪くない。
呼吸も穏やかだ。
ゆっくりと近づく。
ベッドの傍に立ち、手を伸ばす。
一瞬だけ、止まる。
昔は、こんなことはなかった。
触れることに、理由などなかった。
ただ、隣にいたかっただけだ。
——でも、今は違う。
そっと、その手を取る。
両手で包む。
温もり。
確かにここにある。
「……俺、頑張るから」
小さく、呟く。
「フィラのこと、守るよ」
少しだけ、指に力がこもる。
「……フィラの大切な人たちも」
視線を落とす。
「俺が守るから」
静かに、息を吐く。
「……もっと、強くなる」
誓い。
誰に聞かせるでもなく。
ただ、自分に刻む。
やがて、そっと手を離す。
起こさないように。
静かに立ち上がる。
もう一度だけ、その寝顔を見る。
それから。
音を立てずに、部屋を出た。
守るために。
何にでもなると、決めたままに。
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回はヴァルドの「誓い」の回でした。
これまでの淡い想いから一歩進んで、「守る」と決めたことで、彼の立ち位置も大きく変わってきたかなと思います。
フィラに対する気持ちは本人はまだ言葉にしきれていませんが、行動や選択にはしっかり現れ始めています。
この先、彼がどんな形でその想いを深めていくのかも、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
そしてアーバインとの関係も、少しずつ変化してきました。
ここからどう転んでいくのかも見どころの一つです。
GW中、天気はいまいちですが、物語の方はしっかり進めていきたいと思います。
次回もお付き合いいただけたら嬉しいです。




