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「見せつける力」

いつも読んでいただきありがとうございます。


気づけばもうGWの時期ですね。

時間が過ぎるのが本当に早くて、自分でもびっくりしています。


お休みの方も、お仕事の方も、それぞれ慌ただしい時期かと思いますが、そんな中で少しでもこの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。


今回もよろしくお願いします。

皇城の大広間は、眩い光に包まれていた。


高い天井に吊るされた燭台。

磨き上げられた床に映る人影。

華やかな衣装に身を包んだ貴族たち。


すべてが、祝福のための宴。


――表向きは。


「本日は、我が子ヴァルドの生誕を祝う宴に集まってくれたこと、感謝する」


玉座の前で、皇帝がゆったりとした声で告げる。


拍手が広がる。


だが、その視線の多くは祝福ではない。


値踏み。

嘲り。

好奇。


様々な感情が、ヴァルドへと向けられていた。


その隣で、フィラは小さく拳を握る。


(嫌な空気……)


笑顔ばかりの宴なのに、温かさはない。


隣に立つオズワルドは静かだった。


ただ、その存在だけで周囲を黙らせるような圧がある。


ヴァルドもまた、穏やかな表情を崩さない。


けれどフィラにはわかる。


(……来る)


彼も、そう思っている。


「――陛下」


一人の声が響いた。


前に進み出たのは、第3皇子。


その後ろには第4、第5皇子も控えている。


昼間、自室でもヴァルドに突っかかってきた兄たちだ。


「せっかくの生誕祭です。弟の成長を、この場で見せていただくのはいかがでしょうか」


にやり、と笑う。


「半年大公家に預けられていたとはいえ、我らと同じ皇子。多少は見られるものになっているのでしょう?」


くすくす、と笑いが漏れる。


明らかな見せ物。


だが皇帝は楽しげに目を細めた。


「ほう。面白い」


ゆっくりとヴァルドを見る。


「どうだ、ヴァルド」


逃げ場はない。


「……お受けいたします」


静かに答える。


フィラが思わず一歩前に出かけるが、オズワルドがそっと肩に手を置いた。


「大丈夫」


フォらにだけ見せる幼く柔らかい声。


それだけで、不思議と息が整う。


(……うん)


ヴァルドなら、大丈夫。


そう信じる。


――剣が手渡される。


向かい合う、兄と弟。


「相手をしてやることに感謝しろよ?」


第3皇子が見下すように笑う。


「……はい」


短く返す。


開始の合図。


次の瞬間、第3皇子が一気に踏み込む。


速い。


だが、読める。


(まだだ)


ヴァルドは受ける。


いなす。


避ける。


最小限の動きで、ただ凌ぎ続ける。


「どうした! その程度か!」


嘲笑が響く。


観客の間にも同じ空気が広がる。


(弱い?)


そう思わせる。


それでいい。


(見せすぎるな。だが、負けるな)


呼吸。

重心。

癖。


全部、見えている。


一瞬。


わずかな隙。


(今)


踏み込む。


一手だけ、本気。


――弾く。


第3皇子の剣が、大きく逸れた。


ざわり、と空気が揺れる。


「っ……!」


兄の顔が歪む。


再び打ち込む。


激しくなる攻防。


だが徐々に――流れは変わっていく。


「調子に乗るな!」


苛立ちが混じる。


大振りになる。


(終わる)


ヴァルドは踏み込む。


最短で。


無駄なく。


――叩き落とす。


剣が宙を舞った。


そのまま、第3皇子の身体が床へと崩れる。


静まり返る会場。


勝負は、決した。


だが。


倒れたまま、第3皇子は唇を歪めた。


「……調子に乗るなよ、出来損ない」


吐き捨てるように笑う。


「大公家に拾われたからって、何か変わったつもりか?」


ヴァルドは何も言わない。


ただ、静かに見下ろしている。


それが余計に癇に障る。


「お前も、あの娘も同じだ」


にやり、と笑う。


「人間の血なんぞ引いた、半端者のくせに」


空気が、わずかに冷える。


フィラが息を呑む。


「白すぎる髪に、あの目。気味が悪いと思っていたが……なるほどな。まともな血じゃない」


くすくす、と小さな笑い。


止まらない。


「拾われた娘が、大公家の姫気取りとは笑わせる」


さらに。


「どうせ、どこぞの売女が産み落とした汚れた娘だろう?」


その瞬間。


空気が、凍った。


「そんな薄汚い半端者を、大事そうに囲ってる大公閣下も、随分と物好きだ」


――ピタリ、と。


ヴァルドの動きが止まる。


ゆっくりと、視線が落ちる。


(……フィラを)


頭の奥が、静かに冷えていく。


同時に、熱が込み上げる。


(許さない)


次の瞬間。


踏み込んでいた。


一切の迷いなく。


無駄のない動き。


先ほどまでとは、別人のように。


「っ――!」


第3皇子が目を見開く。


避けられない。


そのまま押し倒す。


剣を突きつける。


喉元へ。


あと少しで届く。


会場が息を呑む。


誰も動けない。


その時。


「ヴァルド!」


声が響いた。


はっとする。


振り向く。


フィラが立っていた。


心配そうな顔で、真っ直ぐこちらを見ている。


「……」


止まる。


剣が、わずかに震える。


(……フィラ)


息を吐く。


ゆっくりと。


熱が、引いていく。


「……失礼いたしました」


剣を引く。


立ち上がる。


兄から離れる。


完全な沈黙。


誰も声を出せない。


その中で。


「……なるほど」


皇帝が、ゆっくりと口を開いた。


「良い成長だ」


その声音は穏やかだった。


だが、その目は愉しげに細められている。


(ここまで仕上げたか)


視線はヴァルドから外れない。


無駄のない動き。

一瞬で詰めた間合い。

そして――あの殺気。


(オズワルドが本気で育てている)


ただ預けただけでは、ああはならない。


技も、判断も、そして躊躇のなさも。


(あの男が受け入れた証だ)


そして、もう一つ。


思い出すのは先ほどの一瞬。


フィラを侮辱された時。


空気が変わった。


あれは、ただの怒りではない。


(執着、か)


ゆっくりと視線がフィラへ向く。


あの少女。


ただ守られているだけの存在ではない。


(鍵は、あれだな)


再び、ヴァルドへ。


(あれほどまでに執着しているなら――)


揺さぶれる。


操れる。


選ばせることもできる。


(オズワルドの懐に入る駒としては、これ以上ない)


直接は届かない。


だが――あれを使えば届く。


さらに。


(……もし、あの娘が“そう”であるなら)


確証はまだない。


だが、可能性は高い。


ならば尚更。


欲しい。


その力も。


その存在も。


そして、それを得る手段も。


「面白い」


ぽつり、と漏れる。


玉座の上で、静かに笑った。


「良い夜だ」


その一言に。


誰も逆らえなかった。


その様子を見ていたオズワルドは、小さく息を吐く。


(……まったく)


ほんのわずかに、呆れたように目を細める。


(感情を抑えきれんとは、まだ子供だな)


だが、その視線は厳しくない。


むしろ、どこか納得したようなものだった。


(それでいい)


完全に冷えた人間より、よほどいい。


視線をフィラへ向ける。


(……よく止めた)


言葉にはしない。


だが確かに、そう思った。


静まり返る会場。


その中心で。


ヴァルドは静かに立っていた。


もう誰も。


彼を“出来損ない”とは呼ばなかった。

お読みいただきありがとうございます。


今回は宴の場で、ヴァルドがしっかりと“見せつける”回になりました。


ただ強いだけではなく、どこまで見せて、どこで抑えるか。

そしてフィラのことになると理性が飛びかける、その危うさも含めて今のヴァルドらしさが出た回だったかなと思います。


兄皇子たちからの侮辱はかなり強めでしたが、それだけヴァルドにとってフィラやオズワルド、大公家がどれほど大切なのかが伝われば嬉しいです。


また、皇帝側もただ見ているだけではなく、しっかりと利用価値を見出しているので、ここからまた少しずつ不穏さが増していきます。


次回は宴の裏側、それぞれの思惑が静かに動く回になりそうです。


引き続き見守っていただけたら嬉しいです!

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