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「それぞれの強さ」

第28話です。


今回は少し穏やかな日常回ですが、フィラとヴァルド、それぞれの「得意なこと」と「苦手なこと」がはっきりしてきます。


同じように強くなりたいと思っても、進む道は少しずつ違っていく――そんなお話です。


ゆっくりとした変化を楽しんでいただけたら嬉しいです。

朝の光が、柔らかく食卓を照らしていた。


焼きたてのパンに、温かなスープ。いつもと変わらないはずの朝。


けれど――どこかだけ、違って見えた。


父とヴァルドの間に流れる空気が、ほんの少しだけ張り詰めている気がする。


フィラは一瞬だけ視線を上げた。


(……あれ?)


けれど、父は穏やかな表情のままパンをちぎり、ヴァルドもいつも通りスープを口にしている。


何も変わらない、はずの光景。


だからフィラは、考えるのをやめた。


代わりに、ぱっと明るく笑う。


「父様……これ美味しいよ!」


お気に入りのおかずを父の皿へ。


「はい、ヴァルドにも!」


同じようにもうひとつをヴァルドの皿へ乗せる。


父は目を細め、優しく頭を撫でた。


「ありがとう、フィラ」


ヴァルドも嬉しそうに笑う。


「ありがとう!」


そのまま一口食べて、ほっとしたように表情を緩めた。


何気ないやり取り。


けれどそれだけで、少しだけ空気が和らいだ気がした。


朝食が終わると、フィラは父のもとへ駆け寄る。


「父様、頑張って」


そっと頬に口づけると、オズワルドは一瞬驚いたように目を見開き、すぐに優しく微笑んだ。


「ああ、行ってくる」


大きな手が頭を撫でる。その仕草には、ほんの少しだけ名残惜しさが滲んでいた。


やがてオズワルドはラースを伴い、執務室へ向かう。


扉が閉まるのを見届けてから、フィラは振り返った。


「ヴァルド、行こ?」


差し出した手に、ヴァルドは一瞬だけ戸惑い――それでもしっかりと握り返す。


「……うん」


二人はそのまま図書室へ向かった。


「おはようございます」


ラルフに迎えられ、今日の授業が始まる。


ヴァルドの表情は、昨日までとは違っていた。


真剣で、迷いがない。


(守るって、決めたから)


ページをめくる指先に、その決意が宿っている。


「がんばるね、ヴァルド」


フィラがそっと頭を撫でると、ヴァルドは顔を赤くして小さく頷いた。


「……うん」


「私もがんばるね」


向かい合って笑う二人に、ラルフは目を細める。


穏やかな時間が、静かに流れていった。


授業のあと、空き時間ができた。


「外、行こ! 一緒に遊ぼう!」


フィラに手を引かれ、ヴァルドは庭へと連れ出される。


陽だまりの中、二人は駆け回り、笑い合う。


子供らしい、無邪気な時間。


その光景を、執務室の窓からオズワルドは見下ろしていた。


これまでのフィラは、どこか大人びていて、我慢を覚えすぎていた。


けれど今は違う。


心から楽しそうに笑っている。


その隣には、ヴァルドがいる。


「……そうか」


小さく呟き、オズワルドは目を細めた。


(連れ帰ったのは、間違いではなかったな)


ほんのわずかに、肩の力が抜ける。


午後。


二人はそれぞれの授業へ向かう。


フィラはローグのもとで魔法を。


ヴァルドはオズワルドから剣技を学ぶ。


本当は――


フィラも剣を習いたかったし、ヴァルドも魔法を学びたかった。


けれど現実は、はっきりと分かれる。


フィラの魔法は、目を見張るほどに伸びる。


一方で剣は、どうしてもぎこちない。


逆にヴァルドは、剣を握った瞬間に別人のようだった。


しかし魔法は、どうにも感覚が掴めない。


できないわけではない。


けれど――並。


まるで役割を分けるように、二人の才能は分かれていた。


授業のあと。


フィラは少しだけ俯いていた。


(父様みたいに、剣で戦いたかったな……)


小さな悔しさが胸に残る。


そんなフィラに、ヴァルドはぎこちなく言う。


「……僕が、フィラの分も剣で強くなるよ」


フィラが顔を上げる。


「でも、僕……魔法はあんまりだから……だから……」


言葉を探しながら、ぎゅっと手を握る。


「フィラは、魔法で……みんなを守って」


不器用で、まっすぐな言葉だった。


フィラはふわりと笑う。


「うん! ありがとう、ヴァルド」


そのまま抱きつくと、


「わっ……!?」


ヴァルドは一気に真っ赤になる。


「ふふ、顔真っ赤」


「だ、だって……!」


言葉にならないまま、それでも腕はそっとフィラを受け止めていた。


(これでいいんだ)


剣じゃなくてもいい。


自分にできることで、守ればいい。


そう思えた。


午後の訓練場。


乾いた金属音が響く。


オズワルドとヴァルドの剣が、何度もぶつかり合う。


「……すごい」


フィラはライオに護身術を教わりながら、思わず呟いた。


「2人ともかっこいい……」


ライオは誇らしげに胸を張る。


「閣下は我が国最強の剣士ですから」


そして、目を細めた。


「しかし……子供相手に手を抜いているとはいえ、あの閣下の間合いに入り続けている」


低く、感心した声。


「皇子も大したものですね」


ヴァルドは息を上げながらも、一歩も引かない。


必死に食らいついている。


その姿に、フィラの胸がじんわりと熱くなる。


同時に――


ほんの少しだけ。


遠くに感じる気持ちが、胸をかすめた。


「フィラ様、手が止まっていますよ」


「あ、ごめんなさい!」


慌てて構え直す。


その視線の先で、再び剣がぶつかり合った。


高く、鋭い音が空に響く。


それぞれの強さが、それぞれの場所で磨かれていく。


まだ交わらない道。


けれど――


同じ未来へと、繋がっている。

第28話を読んでいただき、ありがとうございます。


フィラは魔法、ヴァルドは剣と、役割が分かれてきましたが、本人たちはまだ少し複雑な気持ちも抱えています。


それでもお互いを思いやっている今の関係が、この先どう変わっていくのかも見どころです。


オズワルド視点では、フィラが子供らしく笑えるようになったことが一つの救いにもなっています。


少しずつですが、三人の関係も前に進んでいます。


次回は、この穏やかな日常に少し変化が入る予定です。


引き続き読んでいただけると嬉しいです!

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