「同じ側に立つ条件」
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回は第26話の挿話として、
ヴァルドとオズワルドが真正面から向き合う場面をお届けします。
守る覚悟とは何か。
“同じ側に立つ”とはどういうことなのか。
優しさだけでは辿り着けない場所に、
ヴァルドが一歩踏み出す回となっております。
それでは、お楽しみください。
「おやすみなさい、ヴァルド」
ある夜。
フィラと別れ、自室へ戻ろうとしたヴァルドの前に影が落ちた。
「……っ」
顔を上げると、そこにはオズワルドが立っていた。
「話がある」
短く告げ、背を向ける。
ヴァルドは黙ってその後を追った。
連れて行かれたのは執務室。
重い扉が閉まり、二人きりになる。
静寂の中、オズワルドが口を開いた。
「確認をしておきたい」
鋭い視線が突き刺さる。
「お前は、何故ついてきた」
喉が震える。
怖い。
それでも、逃げるわけにはいかなかった。
思い出すのは、あの日。
初めて向けられた優しい笑顔。
「……初めて……人として……扱ってくれたから……」
かすれた声で答える。
「……そばにいたいと……思った……」
言葉を探しながら、それでも続ける。
「離れたくない……できれば……フィラの力に……なりたい……」
沈黙。
オズワルドは何も言わず、ただ見つめている。
逃げ場のない視線。
「フィラが好きか?」
突然の問い。
ヴァルドは顔を上げた。
真っ直ぐに向けられる紅い瞳。
少し考え、そして頷く。
「……好き……です」
「フィラの側に……いたい……」
言葉は拙い。
それでも、はっきりと。
「フィラの笑顔を……ずっと見たいから……」
その答えに――
「チッ」
小さな舌打ち。
オズワルドはわずかに顔を背けた。
(気に入らん)
血の繋がりなど関係ない。
フィラはすでに、自分の何よりも大切な娘だ。
そこへ向けられるこの感情は、面白いものではない。
だが。
再び視線を戻す。
「……中途半端な覚悟なら、いらん」
冷たく言い放つ。
「それではフィラの傍にいる資格はないと思え」
その言葉が胸に突き刺さる。
ヴァルドは息を呑み、視線を落とした。
(やっぱり……)
そう思いかけた、その時。
「……だが」
低い声が落ちる。
オズワルドは机から一通の手紙を取り上げた。
「これを見ろ」
差し出される。
ヴァルドは震える手で受け取り、封に刻まれた紋章を見て息を詰めた。
「……皇帝……」
中を開く。
そこに書かれていたのは――
ヴァルドの生誕祭を皇宮で行うこと。
一度だって行われたことはないのに。
その為の一時帰城の命。
そして、オズワルドとフィラへの招待。
「幾度人を送ってもうまくいかん」
オズワルドが淡々と告げる。
「ならば次はお前を、というわけだ」
ヴァルドの手が震える。
(……僕を……使う……)
「お前は皇帝の息子だ」
冷たい声。
「それだけで、フィラを危険に巻き込む存在だ」
言い返せない。
事実だからだ。
拳を握りしめる。
だが――
「……気に入らんがな」
ぽつりと吐き捨てる。
「フィラがお前を気にかけている」
一歩、近づく。
「その上で、お前もフィラに情を向けている」
鋭い視線。
「……はい」
「……好き……です」
正直に答える。
逃げずに。
その様子を見て、オズワルドは小さく舌打ちした。
「……虫がつくには、早すぎる」
「……え?」
思わず間の抜けた声が出る。
「勘違いするな」
すぐに冷たく言い直す。
「認めたわけではない」
そのまま、低く続けた。
「だが――」
一拍。
「フィラを守るという一点においてのみ」
はっきりと告げる。
「お前を“同じ側”として扱ってやる」
ヴァルドの目が見開かれる。
「……同じ……」
信じられないように呟く。
「ただし」
すぐに続く言葉は厳しい。
「力も覚悟も伴わぬなら、即座に切り捨てる」
一切の甘さはない。
それでも。
先ほどとは違う。
完全な拒絶ではなかった。
「……っ」
胸の奥が熱くなる。
「これはその試金石だ」
オズワルドが手紙を示す。
「お前の立場を使い、奴の目を逸らす」
「そして、どんな事をしてもフィラを守る」
視線が交わる。
「できるか?」
試す問い。
ヴァルドは拳を握りしめる。
震えはある。
それでも――
「……やります」
顔を上げる。
「僕……やります……!」
その瞳には、確かな意志が宿っていた。
しばらく見つめた後――
「いいだろう」
オズワルドが短く言い放つ。
背を向ける。
「明日から訓練を増やす」
それは拒絶ではない。
認めるための第一歩。
扉が閉まる。
一人残されたヴァルドは、ぎゅっと拳を握る。
(……強くなる)
(フィラを…守れるくらいに)
そして――
(あの人に、認められるくらいに)
静かな決意が、その胸に灯っていた。
お読みいただきありがとうございました。
これまで「守られる側」だったヴァルドが、
初めて自らの意思で「守る側」に立とうとする回でした。
オズワルドもまた、完全には認めていないものの、
フィラを守る“同士”として最低限の資格を与えています。
ただしその関係は、あくまで条件付き。
一歩間違えれば即座に切り捨てられる、非常に危うい均衡です。
この選択が、今後どのような結果をもたらすのか。
引き続き見守っていただけると嬉しいです。




