「選別」
いつもお読みいただきありがとうございます。
舞踏会を終え、いよいよ大公領へ帰還する一行。
しかし、その裏では静かに“選別”が行われていました。
守るために切り捨てるもの。
そして、フィラが手を差し伸べた存在。
優しさと非情さが交差する回となっております。
それでは、第25話をお楽しみください。
昼のパーティーが終わると同時に、オズワルドは即座に動いた。
「出立の準備を整えろ」
その一声で、空気が切り替わる。
フィラが気づいた時には、すでに帰還の準備は整っていた。
皇帝も配下に命じてヴァルドの荷造りや付き人の選定を急がせる。
◆
「……こんなに……」
思わず呟く。
ヴァルドの後ろには、十数人もの付き人。
(……これって……)
顔が青くなる。
(わたしのせいで……)
そんなフィラを、そのまま馬車へ乗せると――
隣に腰を下ろしたオズワルドが、にやりと笑った。
「気にするな」
「……でも……」
「あんな者ども、連れ帰る気はない」
「え……?」
思わず瞬きをするフィラ。
◆
その意味を問う前に――
外が騒がしくなる。
「陛下がお見えです」
ラースが静かに告げた。
馬車の前。
ゆったりとした足取りで現れる皇帝。
「見送りに来てやったぞ、オズワルド」
にこやかな笑み。
だが、その目は笑っていない。
「……ありがたき幸せ」
しぶしぶ馬車を降りるとオズワルドもまた、完璧に礼を返す。
「第七王子のこと、頼んだぞ?」
「ええ。責任をもって“預かりましょう”」
わざと強調する。
皇帝の目が細くなる。
「それと……」
視線が、ヴァルドの後ろへ。
「その者たちも同行させる。世話係だ」
「……承知しております」
短く返す。
沈黙の圧。
だがオズワルドは一歩も引かない。
やがて皇帝は、ふっと笑った。
「よい旅を」
「はっ」
◆
「――出発する」
号令。
まず。
オズワルドとフィラ、ヴァルドの乗る馬車が動く。
そのまま転移門へ。
眩い光に包まれ――消える。
◆
次に。
ヴァルドの“付き人”たち。
「急げ」
「遅れるな」
慌ただしく、転移門へ入っていく。
◆
最後に――
ラース、ラルフたち。
彼らが静かに転移門へ入った瞬間。
ラルフが小さく呟く。
「……座標、調整済みです」
ラースが薄く笑う。
「閣下もお人が悪い」
◆
光が収まる。
◆
――大公領側。
転移を終えたオズワルドたち。
フィラがきょろきょろと辺りを見回す。
「……あれ?」
「ついてきてた人たちは……?」
いない。
どこにも。
オズワルドは、肩をすくめる。
「さてな」
わずかに口元を歪める。
「どこに飛ばされたやら」
◆
――その頃。
深い森の中。
「な、なんだここは!?」
「転移先が違うぞ!」
混乱する声。
次の瞬間――
唸り声がそこかしこから響く。
木々の奥から現れる、巨大な魔獣たち。
「っ……!」
「まさか……最初から……!」
牙が閃き、悲鳴が上がる。
◆
「ええっ!?」
フィラが驚きの声を上げる。
ラースが苦笑する。
「少しだけ、転移先を“ずらした”だけです」
ラルフが補足する。
「危険なものを、そのまま領内に入れるわけにはいきませんので」
フィラはぽかんとした後――
「……すごい……」
そして、ほっと息を吐いた。
「……よかった……」
ヴァルドもまた、フィラにぴたりと寄り添い――
小さく安堵の息を漏らす。
◆
――更に城に向かう馬車の中。
揺れる車内で。
オズワルドの視線が、ヴァルドへ向く。
「……一つ言っておく」
低い声。
空気が張り詰める。
ヴァルドがびくりと震える。
「俺に逆らうな」
短く。
だが重い。
「フィラや大公領に害をなすと判断した場合――」
置かれた一拍に、ヴァルドの喉が鳴る。
「即刻、切り捨てる」
冷徹な宣告。
ヴァルドは何も言わない。
だが。
小さく、真剣な眼差しでこくりと頷いた。
その隣で。
フィラがそっと手を握る。
「……大丈夫だよ。父様は優しいから」
優しい声。
その温もりに、ヴァルドの強張りがわずかにほどける。
◆
やがて――
大公城へ到着する。
巨大な城。
圧倒的な威容。
ヴァルドは、足を止めた。
「……ここ……」
戸惑い。
どうしていいかわからない。
その時。
すっと。
手が差し出される。
「行こ?」
フィラの笑顔。
「ここが、今日からヴァルドのお家だよ」
優しく告げる。
ヴァルドは、その手を見る。
そして――
そっと、握った。
「うん」
小さな手が、繋がれる。
その様子を見ながら。
オズワルドは静かに目を細めた。
(……さて)
この皇子を引き取ったことが、吉と出るか凶と出るか。
それでも――
守るものは変わらない。
◆
大公領で新たな物語が、静かに動き出す。
第25話をお読みいただきありがとうございました。
オズワルドのやり方は、徹底しています。
不要なものは容赦なく排除する――それが大公としての判断。
一方で、フィラは誰かを見捨てることができない。
その対比が、今回の軸になっています。
そしてヴァルド。
彼にとって初めて差し伸べられた手が、どんな意味を持つのか。
ここから大公領での新しい関係が始まります。
次回以降もぜひお付き合いいただけると嬉しいです。




