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「拾われた王子」

いつもお読みいただきありがとうございます。


舞踏会の翌日。

束の間の穏やかな時間かと思いきや、フィラはまた一つ、大きな選択をします。


その選択は、小さな優しさから始まったものでしたが――

やがて新たな波紋を広げていきます。


今回は新キャラクターも登場しますので、ぜひその関係性にも注目していただけたら嬉しいです。


それでは、第24話をお楽しみください。

結界でしっかりと守られた部屋。


さらにラースたちが交代で見張りをしてくれていたおかげで――


フィラは、何の不安もなく深く眠ることができた。



ベッドの上。


オズワルドの腕の中。


その温もりに包まれながら、安心しきったようにぐっすりと。



翌朝。


皆で囲む朝食の時間は、どこか穏やかだった。


昨夜の緊張が嘘のように、静かで優しい空気。



だが――


「……奴にに呼ばれた」


食後、オズワルドがそう告げる。


ラースとラルフを伴い、皇帝の元へ向かう。



「フィラ様はお部屋でお待ちください」


ツェリが優しく言い聞かせる。


「はい」


素直に頷いたフィラは、そのまま部屋で大人しく過ごしていた。



――ふと。


窓の外へ視線を向ける。


庭の一角。


そこにいたのは――


昨夜、しつこく声をかけてきた皇子たち。


そして。


その足元で。


ひとりの少年が、殴られ、蹴られていた。



「……っ!」


考えるより先に、身体が動いた。


扉を開け、駆け出す。



「フィラ様!?」


「お待ちください!」


ツェリとライオの声も届かない。


ただ一直線に、走る。



「何してるの!」


勢いよく飛び込む。


そして。


傷だらけの少年の前に立ち――その背を庇った。



突然現れたフィラに、皇子たちは一瞬驚く。


だがすぐに――嘲るような笑みを浮かべた。


「これはこれは、大公家のフィラ姫」


「そんな奴、庇う必要はありませんよ」


軽く顎で示す。


「我が王家の面汚し。半分人間の血を引く下賎の者ですから」


わざとらしく間を置いて――


「ああ……貴女も、そうでしたね?」


高笑い。


だが。


フィラは、まったく反応しなかった。



振り返る。


「大丈夫?」


しゃがみ込み、優しく声をかける。


「こんなに傷だらけになって……」


そっと手をかざす。


淡い光が溢れ出し――傷を癒していく。



だが。


「無視すんじゃねーよ!」


苛立ったひとりの皇子の手が、フィラへと伸びる。


その瞬間。


「――おやめください」


割り込んだのは、ツェリ。



そして。


無言のまま立ち塞がるライオ。


「うちの姫様に何をされる気ですか?」


その圧に。


皇子たちは一瞬怯む。


「はっ……!」


吐き捨てるように笑う。


「同じ下賎の血を引く者同士、気が合うようだな!」


そう言い残し、去っていった。



静寂。


残されたのは、フィラと少年。


フィラはそっと手を差し出す。


「……来て」


少年は無言で、その手を取った。



部屋へ戻る。


「ツェリ、タオルとお湯を……お願い」


「はい」


用意された湯と布。


フィラは膝をつき、少年の顔に触れる。


「少し、触るね」


ゆっくりと汚れを拭っていく。



乾いた血。


砂埃。


ひとつひとつ、丁寧に。


「こんなに……ひどい……」


やがて。


真っ黒な癖のある髪に触れる。


優しく撫でる。


その時――


真紅の瞳が、ふと持ち上がった。


じっと、フィラを見つめる。


不思議そうに。


フィラは、ふわりと微笑んだ。



そこへ。


オズワルドたちが戻ってくる。


「……誰だ」


低い声。


ラルフがすぐに反応する。


「……その瞳……」


「第七皇子ですね」


「人間の奴隷との間に生まれた子――確か名は、ヴァルド皇子」


静まり返る室内。



フィラは驚きながらも――


すぐに笑った。


「ヴァルドっていうの?」


「私はフィラだよ」


優しく名乗る。



ヴァルドは――


初めて。


ほんのりと頬を染め。


小さく、頷いた。



オズワルドはそれを見て、ため息をつく。


噂は知っている。


皇帝に見放され。


誰からも忌み嫌われる存在。


その少年が――


まるで捨てられた犬のように。


フィラに縋っている。


(……面倒なことになったな)


だが。


「……好きにしろ」


低く告げる。


フィラの優しさを、否定することはできなかった。



やがて。


迎えが来る。


「第七皇子殿下をお迎えに参りました」


その声に。


ヴァルドが震える。


フィラの後ろへ隠れる。



「……大丈夫だよ」


優しく撫でる。


だが――


離れない。



結局。


「昼のパーティーに連れて行く」


そう言って迎えを帰させた。


そうして。


ヴァルドはフィラと共に行くことになった。



昼のパーティー。


ざわめく会場。


その中で。


フィラの隣に立つヴァルド。



「……ほう」


皇帝が、目を細める。


「大公の姫は、随分と息子に懐かれたらしいな」


「どうだ?オズワルド」


「その子はずいぶんと手のかかる子でな」


「養育費は出すゆえ――大公家で育ててやってくれるか?」



沈黙。


オズワルドは理解していた。


これは更なる監視を送り込むための口実。


断るべき話。


だが――


フィラの視線。


そして。


隣で縋るヴァルド。


(……はぁ)


ため息をひとつ。


「……承知いたしました」


そう答えた。


フィラが笑う。


ヴァルドも嬉しそうにしがみつく。



皇帝が満足げに笑う。


だが。


オズワルドの瞳は、冷えていた。


(好きにさせるものか)



守るものが増えた。


だが、それでいい。


すべて守りきるだけだ。



静かに。


新たな火種が灯ったのだった。

第24話をお読みいただきありがとうございました。


フィラの「見過ごせない」という気持ちが、ヴァルドという存在を引き寄せました。

そしてそれは、オズワルドにとっても無視できない新たな火種となります。


守るものが増えるということは、それだけ背負うものも増えるということ。

それでもフィラの優しさを否定しないオズワルドの在り方も、今回の見どころの一つです。


この出会いが、この先どう物語に影響していくのか――

ぜひ続きも見守っていただけたら嬉しいです。

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