「拾われた王子」
いつもお読みいただきありがとうございます。
舞踏会の翌日。
束の間の穏やかな時間かと思いきや、フィラはまた一つ、大きな選択をします。
その選択は、小さな優しさから始まったものでしたが――
やがて新たな波紋を広げていきます。
今回は新キャラクターも登場しますので、ぜひその関係性にも注目していただけたら嬉しいです。
それでは、第24話をお楽しみください。
結界でしっかりと守られた部屋。
さらにラースたちが交代で見張りをしてくれていたおかげで――
フィラは、何の不安もなく深く眠ることができた。
◆
ベッドの上。
オズワルドの腕の中。
その温もりに包まれながら、安心しきったようにぐっすりと。
◆
翌朝。
皆で囲む朝食の時間は、どこか穏やかだった。
昨夜の緊張が嘘のように、静かで優しい空気。
◆
だが――
「……奴にに呼ばれた」
食後、オズワルドがそう告げる。
ラースとラルフを伴い、皇帝の元へ向かう。
◆
「フィラ様はお部屋でお待ちください」
ツェリが優しく言い聞かせる。
「はい」
素直に頷いたフィラは、そのまま部屋で大人しく過ごしていた。
◆
――ふと。
窓の外へ視線を向ける。
庭の一角。
そこにいたのは――
昨夜、しつこく声をかけてきた皇子たち。
そして。
その足元で。
ひとりの少年が、殴られ、蹴られていた。
◆
「……っ!」
考えるより先に、身体が動いた。
扉を開け、駆け出す。
◆
「フィラ様!?」
「お待ちください!」
ツェリとライオの声も届かない。
ただ一直線に、走る。
◆
「何してるの!」
勢いよく飛び込む。
そして。
傷だらけの少年の前に立ち――その背を庇った。
◆
突然現れたフィラに、皇子たちは一瞬驚く。
だがすぐに――嘲るような笑みを浮かべた。
「これはこれは、大公家のフィラ姫」
「そんな奴、庇う必要はありませんよ」
軽く顎で示す。
「我が王家の面汚し。半分人間の血を引く下賎の者ですから」
わざとらしく間を置いて――
「ああ……貴女も、そうでしたね?」
高笑い。
だが。
フィラは、まったく反応しなかった。
◆
振り返る。
「大丈夫?」
しゃがみ込み、優しく声をかける。
「こんなに傷だらけになって……」
そっと手をかざす。
淡い光が溢れ出し――傷を癒していく。
◆
だが。
「無視すんじゃねーよ!」
苛立ったひとりの皇子の手が、フィラへと伸びる。
その瞬間。
「――おやめください」
割り込んだのは、ツェリ。
◆
そして。
無言のまま立ち塞がるライオ。
「うちの姫様に何をされる気ですか?」
その圧に。
皇子たちは一瞬怯む。
「はっ……!」
吐き捨てるように笑う。
「同じ下賎の血を引く者同士、気が合うようだな!」
そう言い残し、去っていった。
◆
静寂。
残されたのは、フィラと少年。
フィラはそっと手を差し出す。
「……来て」
少年は無言で、その手を取った。
◆
部屋へ戻る。
「ツェリ、タオルとお湯を……お願い」
「はい」
用意された湯と布。
フィラは膝をつき、少年の顔に触れる。
「少し、触るね」
ゆっくりと汚れを拭っていく。
◆
乾いた血。
砂埃。
ひとつひとつ、丁寧に。
「こんなに……ひどい……」
やがて。
真っ黒な癖のある髪に触れる。
優しく撫でる。
その時――
真紅の瞳が、ふと持ち上がった。
じっと、フィラを見つめる。
不思議そうに。
フィラは、ふわりと微笑んだ。
◆
そこへ。
オズワルドたちが戻ってくる。
「……誰だ」
低い声。
ラルフがすぐに反応する。
「……その瞳……」
「第七皇子ですね」
「人間の奴隷との間に生まれた子――確か名は、ヴァルド皇子」
静まり返る室内。
◆
フィラは驚きながらも――
すぐに笑った。
「ヴァルドっていうの?」
「私はフィラだよ」
優しく名乗る。
◆
ヴァルドは――
初めて。
ほんのりと頬を染め。
小さく、頷いた。
◆
オズワルドはそれを見て、ため息をつく。
噂は知っている。
皇帝に見放され。
誰からも忌み嫌われる存在。
その少年が――
まるで捨てられた犬のように。
フィラに縋っている。
(……面倒なことになったな)
だが。
「……好きにしろ」
低く告げる。
フィラの優しさを、否定することはできなかった。
◆
やがて。
迎えが来る。
「第七皇子殿下をお迎えに参りました」
その声に。
ヴァルドが震える。
フィラの後ろへ隠れる。
◆
「……大丈夫だよ」
優しく撫でる。
だが――
離れない。
◆
結局。
「昼のパーティーに連れて行く」
そう言って迎えを帰させた。
そうして。
ヴァルドはフィラと共に行くことになった。
◆
昼のパーティー。
ざわめく会場。
その中で。
フィラの隣に立つヴァルド。
◆
「……ほう」
皇帝が、目を細める。
「大公の姫は、随分と息子に懐かれたらしいな」
「どうだ?オズワルド」
「その子はずいぶんと手のかかる子でな」
「養育費は出すゆえ――大公家で育ててやってくれるか?」
◆
沈黙。
オズワルドは理解していた。
これは更なる監視を送り込むための口実。
断るべき話。
だが――
フィラの視線。
そして。
隣で縋るヴァルド。
(……はぁ)
ため息をひとつ。
「……承知いたしました」
そう答えた。
フィラが笑う。
ヴァルドも嬉しそうにしがみつく。
◆
皇帝が満足げに笑う。
だが。
オズワルドの瞳は、冷えていた。
(好きにさせるものか)
◆
守るものが増えた。
だが、それでいい。
すべて守りきるだけだ。
◆
静かに。
新たな火種が灯ったのだった。
第24話をお読みいただきありがとうございました。
フィラの「見過ごせない」という気持ちが、ヴァルドという存在を引き寄せました。
そしてそれは、オズワルドにとっても無視できない新たな火種となります。
守るものが増えるということは、それだけ背負うものも増えるということ。
それでもフィラの優しさを否定しないオズワルドの在り方も、今回の見どころの一つです。
この出会いが、この先どう物語に影響していくのか――
ぜひ続きも見守っていただけたら嬉しいです。




