「守りの誓い」
いつもお読みいただきありがとうございます。
舞踏会の裏での出来事を経て、今回は少しだけ落ち着いた室内での一幕となります。
しかし、静かな場所だからこそ明かされる事実や、それぞれの覚悟が見えてくる回でもあります。
フィラを守ろうとする大人たちの想いと、そんな中で一歩ずつ強くなろうとするフィラの姿を感じていただけたら嬉しいです。
それでは、第23話をお楽しみください。
部屋へと戻ったフィラは、ほっとしたように小さく息を吐いた。
煌びやかな舞踏会の喧騒から離れた静かな空間。
だが胸の奥には、言葉にできない違和感が残っていた。
(……さっきの……なんだったんだろう……)
◆
コンコン――
「入るぞ」
オズワルドの低い声と共に扉が開く。
ラルフ、ラースを伴い、オズワルドが部屋へと入ってきた。
その姿を見た瞬間。
フィラの表情が、ほっと緩む。
◆
「……顔色は悪くないな」
「はい……もう、大丈夫です」
小さく頷くフィラ。
それを確認すると、オズワルドは短く告げた。
「ラルフ」
「承知いたしました」
◆
ラルフが一歩前に出る。
次の瞬間、淡い光が広がった。
幾何学模様が空間に展開され、部屋全体を包み込む。
ぴん、と空気が張り詰める。
◆
「結界を張りました」
静かに告げるラルフ。
「これで盗聴も盗撮もできません」
◆
「すごい……!」
フィラの瞳が一気に輝く。
ぱたぱたと駆け寄る。
「今の魔法!何ですか?」
◆
ラルフは少し驚いたように目を瞬かせ――そして柔らかく微笑んだ。
「空間干渉型の結界魔法です」
「そんなこともできるんですね……!」
純粋な尊敬の眼差し。
◆
ラルフもまた、ローグの教え子。
フィラにとっては兄弟子にあたる存在だった。
◆
「ラルフも……ローグ様に教わったんですか?」
「ええ」
「じゃあ……フィラのお兄さんみたいなものですか?」
「……そうなりますね」
◆
嬉しそうに笑うフィラ。
その姿に、ラルフの表情も柔らかくなる。
かつて距離を取っていたはずの少女。
だが今では――自然と見守る存在になっていた。
◆
その光景を、オズワルドは穏やかな表情で見つめる。
「フィラ」
「はい、父さま!」
呼ばれるとすぐに駆け寄る。
そのまま勢いよく抱きつく。
◆
「……怖かったか」
「……ちょっとだけ……でも……」
ぎゅっと掴む。
「父さまがいるから、大丈夫です」
◆
その言葉に、オズワルドの腕にわずかに力がこもる。
(……何も知らずに)
だからこそ、守らねばならない。
◆
「……ローグ」
静かに呼ぶ。
◆
空気が揺らぐ。
いつの間にか、そこに黒装束の老人が立っていた。
◆
「ローグさま!?」
フィラが驚く。
◆
「うむ」
くつくつと笑う。
「すぐ傍におったのじゃがな」
◆
「今回、影からお前を守ってもらっている」
オズワルドが告げる。
「いわゆる隠密じゃな」
カッカッカッと笑うローグ。
◆
「すごい……!忍者みたい!」
◆
「……にん……じゃ?」
ツェリが首を傾げる。
◆
「あ、えっと……前に聞いたことがあって……影で動いて主を守る人のことを“忍者”って言うんです」
◆
ローグが目を細める。
「忍者か……ふむ……」
そして、にやりと笑う。
「良いなぁ……うむ、これから儂は忍者じゃな」
◆
場の空気が、ふっと和らぐ。
だが――
◆
「……先ほどの件を話せ」
オズワルドの低い声で、空気が引き締まる。
◆
「うむ」
ローグは頷いた。
「皇帝の分身じゃ」
◆
その一言で、空気が凍りつく。
◆
「本体ではないが、“目”でもあり“手”でもある。……あの子に呪いをかけるつもりじゃったな」
◆
「……のろい……?」
フィラの顔が青ざめる。
身体が小さく震え始める。
◆
「……いや……」
無意識にオズワルドにしがみつく。
◆
「フィラ」
優しく抱き寄せる。
「もう何も起きていない」
背を撫でる。
◆
「……こわかった……です……」
◆
「安心しろ」
静かに告げる。
「お前が呪われることはない」
◆
フィラが顔を上げる。
不安な瞳。
◆
「俺が守る」
◆
「何があっても、だ」
◆
一同が息を呑む。
◆
「……いいか」
オズワルドは視線を合わせる。
◆
「何があっても、皇帝の前で聖女の力は使うな」
◆
「でも……父さまが……」
◆
「使うな」
はっきりと断言する。
◆
「お前が呪われることはない。俺がどんな手段を使おうとも守る」
◆
その覚悟に、誰も口を挟めない。
◆
「だから」
◆
優しく頭を撫でる。
◆
「お前は、いつも通りでいろ」
◆
「そして――俺の娘であることを誇りに、堂々としていなさい」
◆
フィラの瞳が揺れる。
怖さは消えない。
それでも――
◆
「……はい」
小さく、しかし確かに頷く。
◆
ぎゅっと抱きつく。
「フィラ……がんばります」
◆
オズワルドはその小さな背を撫でながら、静かに続けた。
◆
「……あと1日、我慢してくれ」
低く、しかし優しい声音。
◆
「明日の午後には、大公領に向かって帰る」
◆
フィラの身体がわずかに緩む。
◆
「……ほんとうですか……?」
◆
「ああ」
短く、確かに頷く。
◆
「帰れば、もう好きに過ごしていい」
◆
その言葉に。
フィラの顔に、少しだけ笑顔が戻る。
◆
「……はい……!」
◆
その様子を見て。
ローグがふっと目を細める。
(……良い顔になったのう)
◆
そして、わずかにオズワルドへ視線を向ける。
何も言わず――静かに一礼。
◆
次の瞬間。
その姿はふっと消えた。
◆
完全に閉ざされた結界の中。
誰にも知られぬ場所で。
◆
それぞれが、それぞれの覚悟を固めていく。
◆
戦いは――
すでに始まっている。
第23話をお読みいただきありがとうございました。
今回は大きな戦闘こそありませんが、見えないところでの危機と、それに対する守りや覚悟を描いた回でした。
特にオズワルドの「守る」という言葉には、これまで以上の強い決意を込めています。
そして、あと一日。
この短い時間が、この先の展開にどう影響していくのか…。
次回も引き続き舞踏会編となります。
ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。




