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「見えざる攻」

いつもお読みいただきありがとうございます。


今回は舞踏会の裏で起こる“見えない攻防”のお話です。

フィラの知らないところで動く思惑や、それを阻む者たちの動きに注目していただけたら嬉しいです。


表には出ないけれど、確かに存在する緊張感を感じていただければ幸いです。


それでは、第22話をお楽しみください。

舞踏会の喧騒は、さらに熱を帯びていた。


音楽と笑い声が重なり、きらびやかな灯りが会場を照らす。


だが――


その裏で、確かに“何か”が動いていた。



「姫様、少しお休みになりませんか」


ツェリの言葉に、フィラは小さく頷いた。


「はい……」


王子たちの相手を続け、疲れが見え始めていた。


ライオとツェリに伴われ、広間から少し離れた回廊へと移動する。


人通りはあるが、先ほどよりも静かだ。


「ここなら落ち着けるかと」


ツェリが微笑む。


フィラはほっと息を吐いた。


(……少し、楽……)


だが、その安堵は長くは続かなかった。


――ぞわり。


背筋を這う、冷たい感覚。


「……っ」


胸元を押さえる。


(なに……これ……)


息が浅くなる。


胸の奥に、じわりと何かが入り込んでくる。


見えないのに、確かに“触れられている”。


(……こわい)


言葉にならない不安が広がる。


「姫様?」


ツェリが不安げに顔を覗き込む。


「……だいじょうぶ、です……」


そう答えながらも、身体は微かに震えていた。



その様子を、離れた場所からオズワルドは見ていた。


(……来たか)


僅かに目を細める。


フィラの周囲に生じた、微かな歪み。


常人には決して捉えられぬ異質な気配。


(分身……皇帝のものだな)


本体ではない。


だが、それでも十分に危険。


(呪いを……かけるつもりか)


胸の奥で、怒りが静かに燃え上がる。


だが、動かない。


ここで動けば――悟られる。


(……任せるぞ)


ほんの僅かに、視線を横へ流す。



その瞬間。


フィラの背後――


誰にも認識されぬ位置に、“影”が形を取った。


人の形をしていながら、輪郭が揺らぐ不安定な存在。


「……大公の娘」


低く歪んだ声。


「その力……やはり特別だな」


影が手を伸ばす。


黒い靄が、フィラへと触れようとする。



――だが。


「ほう……」


別の声が、割り込んだ。


影の動きが止まる。


「……何者だ」


ゆらりと揺らぎながら問いかける。



その背後。


いつの間にか、そこに“いた”。


「全く……」


くつくつと笑う声。


「隠居した老人を、こき使いおって」


現れたのは、ローグだった。


白い顎髭を撫でながら、気だるげに立っている。


だがその目は、鋭く影を射抜いていた。



「……貴様」


影が揺らぐ。


警戒。


明らかな動揺。



「やれやれ」


肩をすくめるローグ。


「可愛い弟子に手を出そうとはのう」


ちらりと視線を向ける。


少し離れた場所で、ライオとツェリに支えられているフィラ。


まだ異変の正体も知らず、不安げにしている。


(……無事か)


ほんの僅か、表情が緩む。


(まあ、良い)


(あの程度で壊れるような子ではないがの)



「さて……」


再び影へと向き直る。


その瞬間、空気が変わった。


「皇帝の分身風情が……」


静かに告げる。


「調子に乗るでない」



影が揺らぐ。


次の瞬間、黒い靄がローグへと襲いかかる。



「――遅いわ」


パチン、と指を鳴らす。



それだけだった。



影は、抵抗する間もなく――


“消えた”。



音もなく。


痕跡も残さず。


存在そのものが、抹消された。



「……ふん」


ローグは鼻を鳴らす。


「分身とはいえ、つまらんのう」



そのまま、ゆっくりと顔を上げる。


視線の先――


オズワルド。



言葉は交わさない。


だが、十分だった。


ローグは静かに一礼する。



(助かった)


オズワルドも、わずかに顎を引く。



「さて……」


ローグはくるりと背を向ける。


「これで一仕事終わりじゃな」


小さく呟く。


「……閣下には、あとで文句を言わんとな」



そのまま、ふっと姿を消す。


まるで最初からそこにいなかったかのように。



同時に。


フィラの身体から、すっと重みが抜けた。


「……あれ……?」


息が、楽になる。


先ほどまでの違和感が嘘のように消えていた。


「姫様?」


「……だいじょうぶです……もう……」


不思議そうに首を傾げる。


何が起きたのか知らぬまま。



その様子を確認し。


オズワルドは、ほんの一瞬だけ視線を向ける。



それだけで十分だった。



ライオの表情が引き締まる。


ツェリも即座に察する。


「姫様、お部屋へ戻りましょう」


「え……?」


「お疲れでしょうから」


自然な声音。


だが、明確な命令。


「……はい」


フィラは頷く。


守られるように、二人に連れられてその場を離れていく。



その背を見送った後。


オズワルドはゆっくりと顔を上げた。


視線の先――玉座。



皇帝が座っている。


変わらぬ笑顔。


だがその額には、うっすらと滲む脂汗。


(……分身が消されたか)


当然だ。


繋がりはある。


消された感覚は、本体へと伝わる。



オズワルドは、わずかに唇を歪めた。



(次は……どう出る)



華やかな舞踏会の裏で。


誰にも知られぬまま――


静かに、戦いは始まっていた。

第22話をお読みいただきありがとうございました。


今回はフィラの知らぬところで、オズワルドやローグが動く回となりました。

直接言葉を交わさずとも通じる信頼関係や、それぞれが果たす役割を感じていただけていたら嬉しいです。


そしてついに、皇帝も本格的に動き出しました。

まだ表立ってはいませんが、静かに、確実に状況は緊迫していきます。


次回も引き続き舞踏会編となりますので、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。

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