「たったひとりの娘」
いつも読んでくださりありがとうございます。
最近、読んでくださる方が増えてきてとても驚いています。
本当に嬉しく、励みになっています。
これからも、もっと楽しんでいただけるよう頑張っていきます。
さて、第15話です。
今回もお付き合いいただけたら嬉しいです。
父やライオたち大公軍が、人間の軍を迎え撃つため森へ出撃した翌日。
◆
フィラは、落ち着かなかった。
ラルフの授業も、ローグの教えも――
まるで頭に入ってこない。
◆
◆
「フィラ姫、大丈夫ですよ」
ラースが穏やかに微笑む。
「大公軍は負けなしですから」
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「特に閣下は、歴代でも最強と称される御方です」
ラルフも続ける。
「人間はしつこいですが……いつも十日ほどで追い返しております。皆、無事に戻ってきますよ」
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「……はい……」
フィラは、小さく笑う。
けれど――
その笑みは、どこか力がなかった。
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みんなもその姿を痛ましく見ていた。
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「魔力は魔族の方が上じゃがな……」
ぽつりと、ローグが呟く。
「人間は魔道具に長けておる。今回も厄介なものを用意しておらねばよいが」
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「ローグ様」
ラースがたしなめる。
「不安を煽る必要はございません」
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「隠しても仕様があるまい」
ローグはどこ吹く風で肩をすくめた。
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その言葉に。
フィラの胸は、ぎゅっと締め付けられる。
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◆
夜。
◆
フィラは、ひとり窓辺に立っていた。
森の方を見つめる。
「……父様……」
小さく手を組み。
祈る。
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「……どうか……みんなが無事でありますように……」
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(……もし……)
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(わたしが……もっと……)
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聖女の力を、使いこなせていたら。
助けに行けるのに。
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前世の家族。
冷たかった、あの場所。
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けれど――
今は違う。
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優しくて。
温かくて。
大好きな人たちがいる。
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(……失いたくない……)
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(……こわい……)
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◆
それから、数日後。
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城が、にわかに騒がしくなった。
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「フィラ様、お部屋から出ないでください」
ツェリにそう言われる。
「……はい……」
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――けれど。
気づけば、足は廊下に出ていた。
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(……父様……)
不安が、止まらない。
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物陰から、声が聞こえる。
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「……巨大な魔道兵器だと……?」
「大公軍が苦戦している」
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その言葉に。
フィラの頭が、真っ白になる。
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(……苦戦……?)
◆
(父様が……苦しんでる……?)
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(ライオも……みんなも……)
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「……いや……」
ぽつりと、声が漏れる。
「……やだ……」
胸が、壊れそうになる。
「……父様……いなくならないで……」
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その時。
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「フィラ!」
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ローグの声。
フィラの魔力の揺らぎに気づいたのだ。
「落ち着くのじゃ!力を暴走させるでない!」
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けれど――
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フィラには、何も届かない。
ただ。
傷ついた父の姿だけが、浮かぶ。
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「……いや!!」
「父様!!」
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その瞬間――
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強烈な光が、溢れた。
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次の瞬間。
フィラの姿は、消えていた。
ラースもツェリも、ラルフもローグも呆然とするしかなかった。
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◆
◆
――森。
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人間の軍と対峙する、大公軍。
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「……厄介だな」
巨大な魔道兵器。
砲撃のように魔力を放つそれに、軍は足止めされていた。
「どう攻略するか…」
軍議の最中――
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空が、光る。
◆
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「……!?」
◆
◆
強烈な光が、降り注いだ。
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◆
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そこに現れたのは――
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「……フィラ……?」
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オズワルドの瞳が見開かれる。
「フィラ!!」
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駆け寄ろうとする。
だが__
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フィラは。
何も見ていなかった。
何も聞こえていなかった。
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ただ――
人間の軍を、睨みつける。
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「……消えろ……」
「……わたしの家族……傷つけるな……」
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「……消えろ!!」
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瞬間。
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暴風が吹き荒れる。
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魔道兵器が――粉々に砕ける。
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人間たちが、吹き飛ばされる。
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◆
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「……なんだ……これは……」
呆然とする大公軍。
人間達が発生した竜巻に、次々と飲み込まれていく。
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フィラは、止まらない。
苦しそうに、顔を歪めながらも。
暴走した力を、止められない。
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「……フィラ!!」
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オズワルドが、踏み込む。
フィラを取り囲む衝撃に、傷を負いながらも。
光を押し切るように。
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そして――
抱きしめた。
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「……もういい」
「……落ち着け、フィラ」
「……もういいんだ……」
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その優しい声。
その温もり。
それらがフィラの耳に…心に届く。
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フィラの視界が、揺れる。
振り返れば大好きな父の顔。
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「……と……さま……?」
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オズワルドが、強く頷く。
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その瞬間。
フィラの瞳から、涙が溢れた。
「父様!!」
勢いよく抱きつく。
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「死なないで……!」
「いなくならないで……!」
「フィラを置いていかないで……!」
「ひとりぼっちは……いや……!」
「頑張るから……!」
「フィラ……役に立つから……!」
◆
泣きじゃくるフィラを。
オズワルドは、強く抱きしめた。
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「……役になんて立たなくていい」
「……頑張らなくたっていい」
「……ずっと一緒にいる」
「……お前を、ひとりになんてさせない」
◆
そして。
◆
「……お前は、俺の大切な――」
◆
「たったひとりの娘だ」
◆
その言葉にフィラは、ただ――
その胸に、しがみついて泣き続けた。
父の腕の強さと温もりを感じながら__
第15話をお読みいただきありがとうございます。
今回はフィラの不安や恐怖、そして抑えきれなかった想いが一気に溢れる回となりました。
やっと手に入れた大切なものを失いたくないという気持ちが、彼女の力を大きく揺り動かしてしまいました。
それでも最後にフィラを止めたのは、オズワルドの強く深い想いでした。
この親子の関係も、ここからさらに深まっていくと思います。
引き続き見守っていただけたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いいたします。




