「小さな決意」
いつも読んでくださりありがとうございます。
少しずつですが、フィラの成長を書いていくのがとても楽しく感じています。
うまくいかないことや悩みながらも前に進んでいく姿を、これからも描いていけたらと思います。
さて、第13話です。
今回もお付き合いいただけたら嬉しいです。
ローグのもとでの魔法の授業は、いつも通りに始まった。
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「では、今日は少し話をしようかの」
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いつもとは違う落ち着いた声に、フィラは姿勢を正す。
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「……はい」
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ローグは白い顎髭を撫でながら、ゆっくりと言葉を選ぶ。
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「聖魔法はな――儂にも教えられん」
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「……え……?」
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思わず、声が漏れる。
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「儂が教えられるのは、六属性の魔法だけじゃ」
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「地・水・火・風・闇・光……それだけじゃ」
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「……でも……」
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フィラは、小さく俯く。
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「……どうしたら……」
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ローグは、じっとフィラを見る。
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「聖魔法は、己で掴むものじゃ」
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「……つかむ……?」
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「六属性を極める中で、己で気づくしかない」
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静かな言葉。
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だが、それは――
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逃げ道のない現実だった。
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「……はい……」
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フィラは、小さく頷く。
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それから。
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フィラは、より一層魔法の練習に打ち込んだ。
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「……火……」
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掌に灯る、小さな炎。
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「……もっと……」
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大きくしようとすれば、揺らぎ。
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水を操れば、形が崩れる。
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風は思うように流れず。
地は重く、動かない。
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「……っ……」
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何度やっても、うまくいかない。
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「……もう一度じゃ」
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ローグの声に、顔を上げる。
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「……はい……!」
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何度も。
何度も。
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繰り返す。
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けれど――
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(……できない……)
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胸の奥に、焦りが募る。
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(……とうさまの……)
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あの日の姿が、よぎる。
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苦しそうに、倒れていた姿。
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(……たすけたい……)
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その想いだけが、強くなる。
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ある日のことだった。
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「……フィラ」
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呼ばれて顔を上げると。
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オズワルドが立っていた。
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「……とうさま……?」
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「少し来い」
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短くそう言って、背を向ける。
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連れて行かれたのは――
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城の外。
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「……のる」
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差し出された手。
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その先には、一頭の馬。
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「……え……」
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戸惑うフィラに。
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オズワルドは無言で手を伸ばし――
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ひょい、と抱き上げた。
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「……わ……!」
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気づけば、馬の上。
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その前に、自分。
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「……つかまっていろ」
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「……はい……」
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しっかりと、オズワルドの服を握る。
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馬が走り出す。
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風が頬を撫でる。
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木々の間を抜けていく。
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やがて――
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視界が、開けた。
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「……っ……」
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そこには。
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広がる草原と、遠くまで続く空。
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光に包まれた景色が、広がっていた。
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「……きれい……」
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思わず、呟く。
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オズワルドは、何も言わない。
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ただ、隣でその景色を見ている。
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しばらくの静寂。
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風の音だけが、優しく流れる。
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「……とうさま」
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「……なんだ」
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「……わたし……」
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言葉を探す。
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「……つよく……なりたいです」
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オズワルドが、わずかに視線を向ける。
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「……どうしてだ」
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フィラは、ぎゅっと手を握る。
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「……とうさまを……」
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「……まもれるくらい……」
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辿々しく、それでも懸命に紡がれる言葉。
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小さな声。
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けれど――
確かな願い。
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オズワルドは、その言葉を静かに受け止め――
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そして。
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ほんのわずかに。
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嬉しそうに、微笑んだ。
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「……そうか」
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短い言葉。
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だが、その声は――
どこか柔らかかった。
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「……なら、強くなれ」
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フィラは、こくんと頷く。
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広い空を見上げる。
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(……がんばる……)
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父のために。
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そして――
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自分のために。
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フィラの中で、小さな決意が芽生えていた。
第13話をお読みいただきありがとうございます。
今回はフィラの「強くなりたい」という想いと、小さな決意を書いてみました。
うまくいかない中でも前に進もうとする姿を、少しでも感じていただけていたら嬉しいです。
そして、そんなフィラを見守るオズワルドの変化も少しずつ描いていけたらと思っています。
次回も引き続きお楽しみいただければ幸いです。




