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「小さなありがとう」

いつも読んでくださりありがとうございます。


決まった時間に投稿するのって、なかなか難しいですね。

昨日はログインに手間取ってしまい、少し遅れてしまいました。


それでも読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。


さて、第12話です。

今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

オズワルドの娘として――


大公領に正式な声明が出された。


◆


その日を境に。


フィラを取り巻く空気は、はっきりと変わった。


◆


「フィラ姫、おはようございます」


◆


廊下ですれ違った魔族が、深く頭を下げる。


◆


「……お、おはようございます……」


◆


思わず、小さくなってしまう。


◆


かつての冷たい視線は消え。


代わりに向けられるのは――敬意。


◆


(……ひめ……)


◆


まだ慣れない呼び名に、胸がくすぐったくなる。


◆


◆


「フィラ姫、本日もお勉強のお時間でございます」


◆


ラースの口調も、より丁寧になっていた。


◆


「……ラース……いつもみたいでいいです……」


◆


戸惑いながらそう言うが。


◆


「それはいけませんな」


◆


穏やかに、しかしはっきりと返される。


◆


「フィラ様は、閣下の大切なお嬢様でございますゆえ」


◆


◆


その言葉に、少しだけ背筋が伸びた。


◆


◆


午前は、ラルフの授業。


◆


「では本日は、各国の情勢について――」


◆


机の上に広げられた地図。


◆


「ここが人間の国々。そしてこちらが魔族領です」


◆


「……はい」


◆


以前よりも、集中して話を聞けているのが自分でもわかる。


◆


「では、質問です。両国を隔てているのは?」


◆


「……!」


◆


少し緊張しながらも、答える。


◆


「……ルシャの森、これが境界……です」


◆


「正解です」


◆


ラルフが、わずかに微笑む。


◆


「素晴らしい。よく理解されていますね」


◆


「……えへへ……」


◆


褒められることが、こんなにも嬉しいなんて。


◆


以前のフィラでは、考えられなかったことだった。


以前よりも、しっかりと理解できる。


答えることもできる。


◆


「……ありがとうございます……!」


◆


◆


午後は、ローグのもとへ。


彼のフィラへの態度は変わらない。


それが少しホッとする。


◆


「ほれ、今日は少し難しい調合をやってみるかの」


◆


「……はい!」


◆


薬草を刻み。


火加減を調整し。


魔力を流し込む。


◆


「……そこじゃ、焦るでない」


◆


「……はい……っ」


◆


真剣な表情で、鍋を見つめる。


◆


やがて。


◆


「……できました……!」


◆


「ほう」


◆


ローグが中を覗き込み、頷く。


◆


「上出来じゃ」


◆


「……ほんとうに……?」


◆


「最初に比べれば、雲泥の差じゃな」


◆


◆


その言葉に、ぱっと顔が明るくなる。


◆


◆


そして――治療院。


◆


「……失礼します……」


◆


以前なら拒絶されていた魔族たちも。


今では無言ながら、腕を差し出してくれる。


◆


「……」


◆


言葉は少ない。


だが、その行動がすべてだった。


◆


◆


そして。


◆


フィラの少し後ろに――


◆


ライオが立っていた。


◆


「……」


◆


何も言わない。


◆


ただ静かに、周囲に目を配り。


◆


フィラのそばを離れない。


◆


◆


(……ライオさん……)


◆


気づけば、必ずそこにいる。


◆


護衛として。


◆


言葉ではなく、行動で示すように。


◆


◆


フィラは、小さく頭を下げた。


◆


「……ありがとうございます……」


◆


◆


ライオは一瞬だけ目を細め――


優しく微笑む。


◆


「……当然の務めです、フィラ姫」


◆


それだけを静かに告げた。


◆


◆


◆


――だが。


◆


「……その作業は危険だ」


◆


低い声が、背後から響く。


◆


「……!」


◆


振り向くと、オズワルドが立っていた。


◆


「……とうさま……?」


◆


「それはまだ早い」


◆


ローグが、くつくつと笑う。


◆


「ほう?先日までは任せておったがのう」


◆


「……あれは別だ」


◆


フィラの手から、そっと器具を取り上げる。


◆


「……これは俺がやる」


◆


「……でも……」


◆


「駄目だ」


◆


短く、きっぱりと。


◆


その様子を見ていたラルフが、呆れたように息をつく。


◆


「……閣下」


◆


「過保護が過ぎます」


◆


「……」


◆


オズワルドは、何も言い返さない。


◆


ただ――


◆


「……怪我をされては困る」


◆


ぽつりと、それだけを言った。


◆


(……とうさま……)


◆


フィラの胸が、じんわりと温かくなる。


◆


◆


◆


「フィラ様、こちらです」


◆


治療院の手伝いが終わると、


ツェリに案内され、ひとつの扉の前に立つ。


◆


開かれたその先。


◆


「……わぁ……」


◆


思わず、声が漏れる。


◆


柔らかな色合いの部屋。


可愛らしく整えられた家具。


◆


「フィラ様のお部屋です」


◆


「……わたしの……?」


◆


「はい」


◆


ツェリが、少し誇らしげに微笑む。


◆


「閣下が……」


◆


その一言に、フィラが振り返る。


◆


「フィラ様に部屋を用意するように、と命じられました」


◆


「……とうさまが……?」


◆


胸が、じんわりと熱くなる。


◆


(……わたしのために……)


◆


部屋の中を、ゆっくりと見渡す。


◆


どこを見ても、優しい。


◆


「……ありがとう……ツェリ……」


◆


「いえ……すべては閣下のご意向ですので」


◆


そう言いながらも、ツェリは嬉しそうに笑った。


◆


◆


◆


食堂。


◆


「……来たか」


◆


「……とうさま」


◆


自然に呼べるようになった、その言葉。


◆


席に着くと。


オズワルドが、ちらりとフィラを見る。


◆


「……今日は何をしていた」


◆


「……えっと……おべんきょうと……おくすりと……」


◆


一生懸命に伝える。


◆


「……そうか」


◆


短い返事。


◆


けれど、ちゃんと聞いてくれているとわかる。


◆


少しの沈黙。


◆


フィラは、ぎゅっと手を握る。


◆


(……いわなきゃ……)


◆


◆


「……あの……とうさま」


◆


◆


「……?」


◆


◆


「……おへや……」


◆


◆


言葉を探しながら。


◆


「……すごく……すてきでした……」


◆


◆


オズワルドが、わずかに目を細める。


◆


◆


「……そうか」


◆


◆


それだけ。


◆


けれど――


◆


「……ありがとう……ございます……」


◆


◆


フィラは、ぺこりと頭を下げた。


◆


◆


「……」


◆


一瞬の沈黙。


◆


◆


オズワルドは、わずかに視線を逸らし。


◆


◆


「……気にするな」


◆


◆


ぶっきらぼうにそう言った。


◆


◆


だが。


◆


その耳が、ほんの少しだけ赤くなっているのを――


◆


フィラは見逃さなかった。


◆


◆


(……とうさま……)


◆


◆


胸が、じんわりと温かくなる。


◆


◆


「……無理はするな」


◆


◆


「……はい……!」


◆


◆


それだけのやり取り。


◆


◆


それでも――


◆


十分だった。


◆


◆


「……とうさま」


◆


◆


小さく呼ぶ。


◆


◆


フィラは、そっと微笑んだ。


◆


その笑顔は――


◆


あたたかな日々の中で、少しずつ育まれていくものだった。

第12話をお読みいただきありがとうございます。


少しずつですが、フィラの居場所や周囲との関係が変わってきました。

こうした穏やかな日常も、大切に描いていけたらと思っています。


まだまだ成長途中のフィラですが、これからどんな風に変わっていくのか、見守っていただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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