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「父様と呼ぶ日」

いつも読んでくださりありがとうございます。


何人もの方に読んでいただけていることが、とても励みになっています。


さて、第11話です。

今回もお楽しみいただけたら嬉しいです。

重い沈黙が、執務室を満たしていた。


◆


「……しかし」


その空気を破ったのは、ラースだった。


◆


「フィラ様が聖女であるならば――」


ゆっくりと、言葉を選ぶ。


◆


「捨てられていた理由が、分かりませんな」


◆


「……」


◆


「聖女は、人間にも魔族にも重要な存在」


◆


「権力を求める者にとっては、なおさらです」


◆


「……」


◆


「それを、よりにもよってルシャの森に捨てるなど……」


◆


一度、目を伏せる。


◆


「死なせるつもりであったとしか思えません」


◆


◆


「それよなぁ……」


◆


ローグが、白い顎髭を撫でながら呟く。


◆


「普通なら、囲って利用するじゃろうに」


◆


◆


「……フィラ様が“聖女であっては困る者”がいたのではありませんか」


◆


ラルフの言葉に、空気が張り詰める。


◆


◆


(……こわい……)


◆


フィラは、オズワルドの腕の中で小さく震えた。


◆


記憶は、ほとんどない。


◆


誰に捨てられたのかも。


なぜなのかも。


◆


ただ――


◆


言いようのない恐怖だけが、胸の奥に広がる。


◆


「……」


◆


その小さな身体を。


オズワルドは、そっと抱き寄せた。


◆


大きな手が、背中を撫でる。


◆


何も言わない。


だが、その温もりが――


◆


(……だいじょうぶ……)


◆


そう、語りかけてくるようだった。


◆


◆


「……閣下」


◆


ライオが、静かに口を開く。


◆


「どうなさるおつもりですか」


◆


真っ直ぐに、主を見つめる。


◆


◆


「……」


◆


誰も、口を開かない。


◆


◆


聖女。


◆


それは――


力であり。


◆


同時に、災いでもある。


◆


◆


手にすれば、絶大な力を得る。


◆


だが同時に。


◆


それを狙う者たちから、執拗に狙われることになる。


◆


◆


(……すてられる……?)


◆


フィラは、ぎゅっと目を閉じた。


◆


オズワルドの服に縋りつく。


◆


(……ここも……?)


◆


(……また……?)


◆


◆


その時――


◆


「……俺の娘にする」


◆


◆


ぽつりと。


静かに、だがはっきりとした声が響いた。


◆


◆


「……え……」


◆


フィラが、顔を上げる。


◆


◆


紅い瞳が、優しく細められていた。


◆


◆


「幸い、同じ銀髪だ」


◆


淡々と続ける。


◆


「俺が人間の女に産ませていた娘だと言えば、信じる者も多いだろう」


◆


◆


その指が、そっとフィラの頬に触れる。


◆


いつの間にか溢れていた涙を、優しく掬う。


◆


◆


「……」


◆


フィラの視界が滲む。


◆


◆


「……よいのか?」


◆


ローグが、どこか楽しげに問いかける。


◆


「ただでさえ、あの男に狙われておるのだぞ」


◆


◆


「ああ」


◆


短く、答える。


◆


◆


「俺の娘だろうが、聖女だろうが――」


◆


わずかに目を細める。


◆


◆


「どうせ狙われる」


◆


◆


静かな断言。


◆


◆


「……ならば」


◆


◆


「俺の娘として、そばに置く」


◆


◆


「俺が守れば、それでいい」


◆


◆


その言葉に。


◆


誰も、何も言えなかった。


◆


◆


フィラはただ――


信じられないものを見るように、オズワルドの顔を見上げた。


◆


その紅い瞳は。


とても優しく、細められていた。


◆


「……俺の娘になるのは、嫌か?」


◆


静かな問い。


◆


「……っ」


◆


フィラは、ぶんぶんと首を振る。


◆


「や、じゃない……!」


◆


けれど――


◆


「……でも……めいわく……」


◆


声が震える。


涙が溢れる。


◆


そんなフィラを見て。


◆


オズワルドは、今までで一番優しく微笑んだ。


◆


そっと、頬に触れる。


◆


流れる涙を、指で拭ってやる。


◆


「……迷惑じゃない」


◆


低く、穏やかな声。


◆


「俺が望んでいるんだ」


◆


一度、言葉を区切る。


◆


「……お前に」


◆


◆


「フィラに――娘になってほしい」


◆


◆


「……っ」


◆


息を呑む。


◆


◆


「……嫌じゃなければ」


◆


◆


「呼べ」


◆


◆


「……“父様”と」


◆


◆


フィラの瞳から、涙が溢れ続ける。


◆


「……と……さま……?」


◆


◆


オズワルドが、静かに頷く。


◆


◆


「……とうさま……!」


◆


◆


その瞬間。


◆


フィラは、強く抱きついた。


◆


◆


「……っ……とうさま……!」


◆


声を上げて、泣き続ける。


◆


◆


「ああ……」


◆


オズワルドは、その小さな身体をしっかりと抱きしめた。


◆


◆


「それでいい」


◆


◆


「お前は、俺の娘だ」


◆


◆


「俺は、お前の父だ」


◆


◆


その言葉は。


◆


揺るがない、確かなものだった。


◆


◆


ラースも、ラルフも、ローグも。


◆


ツェリも――


◆


誰もが、静かにその光景を見守っていた。


◆


◆


そして。


◆


ライオが、一歩前に出る。


◆


◆


フィラの前で膝をつき。


◆


深く、頭を下げた。


◆


◆


「……今までの非礼」


◆


◆


「お詫び申し上げます」


◆


◆


「……フィラ姫」


◆


◆


その呼び名に、フィラが目を見開く。


◆


◆


「本日より――」


◆


◆


「大公家の姫として、お仕えいたします」


◆


◆


「……っ」


◆


フィラは、涙でいっぱいの瞳を向ける。


◆


◆


「……ライオさんは……」


◆


◆


小さく、首を振る。


◆


◆


「……わるくない……です」


◆


◆


「……かぞくを……にんげんに……」


◆


声が、震える。


◆


◆


「……うばわれたら……」


◆


◆


「……にくいの……あたりまえ……です……」


◆


◆


一度、息を吸う。


◆


◆


「……だから……」


◆


◆


「……ありがとうございます……」


◆


◆


その言葉に。


◆


ライオは、目を見開いた。


◆


◆


やがて――


◆


ゆっくりと、頭を垂れる。


◆


◆


「……恐れ入りました」


◆


◆


その声音には、もはや敵意はなかった。


◆


◆


ただ――


◆


敬意だけが、あった。

第11話をお読みいただきありがとうございます。


ついにフィラにとって大きな転機となる出来事が描けました。

ここまで読んでくださった皆さまのおかげで、このシーンを書き切ることができたと思っています。


これからは新しい関係の中で、さらに物語が動いていきます。

引き続き見守っていただけたら嬉しいです。

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