「その力の意味」
第10話です。
ここから少しずつ、フィラの力や立場について明らかになっていきます。
物語にとって大きな転機となる回です。
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
意識が、浮かぶ。
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重たい。
身体が、動かない。
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「……フィラ様……」
遠くで、誰かの声がした。
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(……だれ……?)
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ゆっくりと、まぶたを開く。
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見慣れた天井。
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「……ここ……」
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「……よかった……!」
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すぐ傍で、ツェリが涙ぐんでいた。
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「……ツェリ……?」
かすれた声。
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「お目覚めになられて……本当に……」
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状況が、すぐには飲み込めない。
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「……わたし……」
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記憶が、ゆっくりと戻る。
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――光。
――苦しむオズワルド。
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「……大公様……!」
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がばりと起き上がろうとして――
「……無理をするな」
低い声が、それを止めた。
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振り向く。
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そこにいたのは――
オズワルドだった。
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「……!」
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その姿を見た瞬間。
胸の奥が、強く締め付けられる。
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「……よかった……」
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ぽろりと涙がこぼれる。
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「……ごめんなさい……」
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「……何がだ」
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「……わたし……」
震える声。
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「……へんなこと……したかも……」
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「……五日だ」
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「……え……?」
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「お前が眠っていた時間だ」
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「……!」
目を見開く。
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「……そんなに……?」
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「……ああ」
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「……」
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「……無事だ」
短く、そう続ける。
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フィラを、見下ろす。
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「……お前が助けた」
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「……!」
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胸が、強く鳴る。
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「……ほんとうに……?」
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「ああ」
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嘘はない。
そう思える声だった。
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「……よかった……」
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安堵に、力が抜ける。
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それからしばらくの間。
フィラの身体は、思うように動かなかった。
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「フィラ様、少しずつで大丈夫ですよ」
ツェリが優しく世話をしてくれる。
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食事を運び。
身体を起こし。
眠りにつくまで、そばにいてくれる。
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そして――
「……起きているか」
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一日に何度も。
オズワルドが顔を出した。
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「……大公様……」
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短い言葉を交わすだけ。
それでも。
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(……よかった……)
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あの夜のように、苦しむ姿はもうない。
それだけで、胸がいっぱいになる。
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さらに数日が経ち――
ようやく身体が動くようになったある日。
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フィラは、オズワルドに抱き上げられていた。
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「……だいじょうぶか」
「……はい……」
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そのまま運ばれた先は――
執務室。
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中にはすでに。
ラース、ラルフ、ローグ、ツェリ。
そして――
ライオの姿もあった。
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(……ライオさん……)
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ぴり、と張り詰めた空気。
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フィラは、思わずオズワルドの服を掴む。
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「……」
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そのまま席に着くと。
オズワルドは、静かにローグへ視線を向けた。
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「……話せ」
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「うむ」
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ローグが一歩前に出る。
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「まず――」
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一呼吸置いて、告げる。
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「この娘は、六属性すべてを扱える」
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「……っ」
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その場の空気が、一瞬で変わる。
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「地、水、火、風、闇、そして光」
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「……すべてじゃ」
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ラースも、ラルフも。
ツェリですら、息を呑んだ。
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ただ一人――
オズワルドだけが、無言でフィラを見ている。
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「もちろん、それだけでも十分に異質じゃ」
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ローグは続ける。
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「だが、この娘は違う」
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「……」
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「どの属性も、同じように使いこなす」
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視線が、一斉にフィラへ向く。
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「……っ」
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怖くなって。
フィラは、オズワルドにしがみついた。
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「……おかしい……こと……ですか……?」
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震える声。
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その頭に、そっと手が置かれる。
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「……珍しいだけだ」
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オズワルドの低い声。
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「全属性を扱える者は少ない」
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「……」
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「さらに、向き不向きなく扱えるとなれば――」
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わずかに言葉を区切る。
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「……天才と呼んで差し支えない」
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「……てんさい……」
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小さく呟く。
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「だが」
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ローグが、言葉を継いだ。
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「今回、閣下を救った力で……理由がはっきりした」
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「……理由……?」
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「……あれは“聖魔法”じゃ」
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「……!」
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「この世で、それを扱えるのは――」
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「“聖女”のみ」
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「……せい……じょ……?」
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フィラは首を傾げる。
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ローグは、静かに続けた。
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「この世には時折――」
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「創造神の加護を受けた存在が現れる」
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「それが“聖女”じゃ」
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「……」
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「そしてな」
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その声が、わずかに低くなる。
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「“聖女”が現れる時――」
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「この世界には、災いが訪れる兆しでもある」
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「……っ」
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フィラの手が、ぎゅっと握られる。
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「……わたし……が……?」
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小さな声が、震えた。
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部屋の空気が、さらに重くなる。
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その中で――
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オズワルドだけが。
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静かに、フィラの頭を撫でていた。
第10話をお読みいただきありがとうございます。
フィラの力や、その意味について少しずつ明らかになってきました。
戸惑いや不安の中でも前に進もうとする姿を、これからも大切に描いていきたいと思っています。
ここから物語もさらに動いていきますので、引き続き見守っていただけたら嬉しいです。




