第99話 アウレリアの記憶
アウレリアの記憶。
レグルスは、
それを静かに見ていた。
部屋の中。
女性が、
赤子を抱いている。
窓際へ立ち。
静かに外を見つめていた。
その時。
外から声が響く。
木刀がぶつかり合う音。
剣士たちの歓声。
レグルスは、
ゆっくりと窓へ近づいた。
外を見る。
そこには。
剣士たちに囲まれた、
広い訓練場があった。
二人の男性が、
木刀を構えている。
次の瞬間。
一人が踏み込んだ。
鋭い一撃。
木刀が弾き飛ばされる。
乾いた音。
そして。
勝負は決した。
弾き飛ばした男性が、
木刀を相手の首へ突きつける。
突きつけられた男性が、
悔しそうに口を開いた。
「お前……」
「俺は、
この国の王だぞ」
「わかっているのか!」
周囲の剣士たちが笑う。
だが。
木刀を下ろした男性も、
どこか楽しそうだった。
「遠慮するなと言ったのは――」
小さく笑う。
「陛下でしょう」
周囲から歓声が上がる。
剣士たちも、
大きく湧いていた。
女性は、
赤子をあやしながら、
その様子を見つめている。
「あらあら」
優しい声。
「あなたの父君は、
負けちゃいましたね」
赤子へ視線を落とす。
「あなたも――」
「アウレリアの剣士たちのように」
「強くなるんですよ」
優しく語りかける。
そして。
少しだけ寂しそうに笑った。
「でも……」
「あなたが大きくなる頃には」
「剣の必要ない世界に――」
「なっていてほしい……」
レグルスは。
その光景を、
静かに見つめていた。
次の瞬間。
再び光が広がる。
視界が白く染まった。
そして。
レグルスが目を開く。
そこは。
先ほどの部屋だった。
だが。
空気が違う。
重い。
冷たい。
部屋の中央には、
影が立っていた。
黒い輪郭。
人の形。
だが。
その存在だけで、
空間が歪んで見える。
――エクリシウス。
外は暗かった。
そして。
騒がしい。
遠くから、
戦いの音が響いている。
剣戟。
叫び声。
崩れる音。
レグルスの背後から、
声がした。
「あなたが、
魔王……」
レグルスは振り返る。
壁際。
女性が、
赤子を抱いて立っていた。
エクリシウスが、
静かに応える。
「お前たちは……」
わずかな沈黙。
「そう呼んでいるな……」
女性は、
赤子を強く抱き寄せる。
そして。
エクリシウスを睨みつけた。
「どうして、
こんなことを……」
エクリシウスが、
小さく笑う。
「どうして……」
低い声。
「考えたこともないな……」
影が揺れる。
「そんなことは、
どうでもいい……」
そして。
抱かれた赤子を指差した。
「その赤子を寄越せ」
空気が歪む。
「その魔力を……」
影が揺らめく。
「喰わせろ」
女性の腕に、
さらに力が入る。
「どうして……」
震える声。
「あなたなどに……」
赤子を抱き締める。
「この国の……」
涙が滲む。
「希望を、
渡してなるものか」
次の瞬間。
影が伸びた。
一瞬だった。
黒い影が。
女性の身体を貫く。
レグルスの目が、
大きく見開かれる。
さらに。
影が赤子を覆った。
レグルスは、
咄嗟に飛び出す。
影へ掴みかかった。
だが。
その腕は、
すり抜ける。
掴めない。
止められない。
これは記憶だった。
影が消える。
女性の身体が、
ゆっくりと前へ崩れ落ちた。
「ソティス……」
小さな声。
それだけを残して。
女性は、
動かなくなった。
影は。
赤子を包み込んだまま、
窓の外へ消えていく。
その時だった。
部屋の外から、
大きな足音が響く。
扉が勢いよく開かれた。
「ご無事ですか!?」
剣士が、
部屋へ飛び込んでくる。
だが。
次の瞬間。
その顔が凍りついた。
「王妃様……」
震える声。
「王妃様!!」
さらに。
数人の剣士たちが集まってくる。
部屋は、
一瞬で騒然となった。
剣士の一人が叫ぶ。
「早く医者を!」
「早く陛下を!!」




