第98話 ソティス・アウレリア
ミヅキは。
壁に刻まれた名前を、
静かに見つめていた。
そして。
小さく口を開く。
「レグルスさん……」
レグルスが、
ミヅキを見る。
ミヅキは、
壁から目を離さないまま続けた。
「ここに……」
「あなたの本当の……」
「名前が刻まれています」
静かな声。
レグルスの表情が変わる。
ゆっくりと。
ミヅキの元へ歩み寄った。
リオラも続く。
ミヅキは、
壁の一角を指差した。
そこに刻まれていた名。
「ソティス……」
わずかな沈黙。
「ソティス・アウレリア……」
ミヅキが、
静かに読み上げる。
「これが……」
「レグルスさんの本当の名前……」
その瞬間。
レグルスの目が、
大きく見開かれた。
微かな魔力が溢れる。
そして。
何かが、
流れ込む。
ミヅキは、
さらに壁を見る。
「その上には、
王妃の名……」
文字を追う。
「没年は、
ソティスと同じ……」
そこで。
ミヅキは、
ふとレグルスを見る。
レグルスは。
目を見開いたまま、
動かなかった。
ただ。
壁に刻まれた名前を、
見つめ続けている。
ミヅキが、
静かに声を掛ける。
「レグルスさん……?」
返事はない。
リオラが、
不安そうにレグルスを見る。
「ちょっと、
レグルス!?」
その肩を揺らす。
「どうしたの……?」
だが。
レグルスは、
立ち尽くしたままだった。
ミヅキも、
レグルスへ触れる。
その瞬間。
目を見開いた。
――魔力が……。
レグルスの身体から。
微かな光が溢れている。
――レグルスの中の……。
――太陽の王家の魔力が……。
――大きくなっている……。
その時だった。
背後で、
強い光が灯る。
リオラが振り返る。
「ミヅキ!」
「魔光石が!」
ミヅキも振り向く。
祭壇の魔光石。
その光が。
先ほどとは比べものにならないほど、
強くなっていた。
空間全体を照らしている。
――これは……。
――何が起こっているの……?
リオラは、
再びレグルスを見る。
「レグルス!」
肩を揺らす。
「レグルス!」
だが。
レグルスの意識は、
遠のいていた。
リオラの声が、
遠くなる。
光が広がる。
視界が白く染まった。
次の瞬間。
レグルスは。
ひとりの女性を見ていた。
身籠った女性。
大きな窓の前に立ち。
静かに外を見つめている。
女性は。
静かに腹へ手を添えていた。
窓の外を見る。
遠く。
夕焼けに染まる空。
その表情には、
わずかな憂いがあった。
「この子の時代には――」
小さな声。
「闇が、
晴れていますように……」
レグルスは、
その様子を静かに見つめていた。
「これは……」
微かな息。
「アウレリアの記憶……?」
その瞬間。
再び光が広がる。
視界が白く染まった。
レグルスは、
顔をしかめる。
次の瞬間。
赤子の泣き声が響いた。
レグルスは、
ゆっくりと目を開く。
部屋の中。
産婆が、
先ほどの女性へ赤子を渡していた。
周囲はざわめいている。
「陛下!陛下!」
「お産まれになりました!」
扉が開く。
王と思われる男性が、
慌てた様子で部屋へ入ってきた。
「よくやった」
女性は、
疲れた表情のまま微笑む。
「抱いてあげてください」
そう言うと。
赤子を、
男性へ預けた。
男性は、
赤子を抱き上げる。
そして。
静かに口を開いた。
「アウレリアの陽は――」
「まだ、
消えないぞ」
赤子を見る。
「この子が王になる頃には」
「この戦いを終わらせる」
女性は、
その様子を見つめながら問いかける。
「名前は――」
「もう、
お決めですか?」
男性が頷く。
そして。
赤子を抱いたまま、
静かに告げた。
「ソティス……」
わずかな沈黙。
「ソティス・アウレリアだ」




