第94話 強行突破、迫る限界
レグルスは、
剣を構え直した。
目の前には、
無数の影。
終わりの見えない群れ。
レグルスは、
さらに魔力を込める。
刃が光る。
そして。
一閃。
今までよりも強い斬撃が、
正面へ放たれた。
轟音。
影の群れが吹き飛ぶ。
砂が舞う。
大きな土煙が上がった。
その隙を逃さず。
レグルスは、
リオラとミヅキの元へ後退する。
そして。
リオラを見る。
「リオラ」
「走られるか……?」
リオラが、
すぐに頷く。
「いけるわ!」
レグルスも頷く。
「神殿の――」
「あの台座までだ」
そう言うと。
レグルスは、
そっとリオラへ魔力を流した。
身体が軽くなる。
リオラが、
わずかに目を見開く。
その時。
ミヅキが口を開く。
「私は……」
だが。
言い終わる前に。
レグルスが、
ミヅキを肩へ担ぎ上げた。
「ちょっ……」
思わず声が漏れる。
レグルスは、
構わず前を見る。
「とにかく――」
「あの台座まで走る」
「ミヅキは、
少しでもいい」
「影を止めてくれ」
ミヅキが、
戸惑う。
「そんな……」
「どこまでできるか……」
レグルスが答える。
「大丈夫だ」
短い言葉。
そして。
「お前は――」
「あの大賢者の子孫だ」
「できる」
ミヅキの目が揺れる。
肩に担がれたまま。
杖を見つめる。
そして。
その手に力を込めた。
「わかりました」
杖を握り直す。
その瞳には。
先ほどまでの迷いは、
残っていなかった。
無数の影が迫る。
剣を携えた群れ。
終わりの見えない黒。
レグルスが、
剣を構えた。
「行くぞ」
リオラが頷く。
ミヅキも、
静かに頷いた。
次の瞬間。
レグルスが地面を蹴る。
一気に駆け出した。
リオラも続く。
砂が舞う。
前方には、
影の群れ。
レグルスは走りながら剣を振るう。
一閃。
魔力の斬撃が走る。
前方の影が吹き飛んだ。
その隙へ飛び込む。
止まらない。
再び剣を振るう。
一閃。
また一閃。
影を切り開きながら、
遺跡の奥へ進んでいく。
リオラは、
その背を追った。
ただ前を見る。
立ち止まれば終わる。
レグルスの肩では。
ミヅキが、
杖を強く握り締めていた。
魔力が広がる。
薄い光の壁。
その中へ入った影は、
動きを鈍らせた。
完全には止まらない。
だが。
それだけで十分だった。
レグルスの剣が届く。
影が消える。
再び前へ。
崩れた石壁の脇を駆け抜ける。
倒れた柱を飛び越える。
風化した建物が、
次々と後方へ流れていった。
風が吹く。
息が上がる。
それでも足は止まらない。
影を吹き飛ばし。
道を切り開き。
ただ前へ進む。
目指す先は一つ。
王家の台座。
そこだけを見据えながら。
三人は、
太陽の王国の遺跡を駆け抜けていった。
やがて。
前方に、
神殿の跡が見えた。
崩れた石壁。
横たわる柱。
長い年月に削られた遺構。
その中央。
ひとつの台座が残されていた。
レグルスが、
目を細める。
――あそこか。
「もう少しだ!」
リオラが頷く。
三人は、
神殿の区画へ飛び込んだ。
影を振り切り。
中央の台座へ向かう。
レグルスは、
ミヅキを肩から降ろした。
ミヅキが、
よろめきながら着地する。
一方。
リオラは、
その場へへたり込んだ。
肩で息をしている。
「はぁ……」
「はぁ……」
ミヅキが叫ぶ。
「リオラさん!」
「ここに魔力を!」
リオラは顔を上げる。
小さく頷いた。
そして。
立ち上がる。
一歩。
また一歩。
台座へ近づいていく。
震える手を伸ばした。
台座へ触れる。
力を込める。
だが――。
何も起きない。
静寂。
リオラの表情が固まった。
「やっぱり……」
小さな声。
「ペンダントがないと……」
レグルスが、
剣を構え直した。
柱の向こう。
影が現れる。
ひとつ。
ふたつ。
そして。
次々と。
崩れた柱の隙間から。
黒い剣士たちが姿を現していた。
三人を囲むように。
ゆっくりと近づいてくる。




