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勇者、懲役1000年。 千年後、俺は勇者ではなく悪魔になっていた。  作者: 直助
第五章 再生の灯火

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第91話 失われゆく力、深まる影

 暗闇の向こうから。


 声がした。



「どうしたんだよ」


「暗い顔して」



 レグルスが、

 顔を上げる。


 そこにいたのは。


 皇子だった。



 その腕には、

 小さな赤子が抱かれている。



 懐かしい光景。



 レグルスが、

 静かに口を開く。


「俺たちは……」


「魔王を――」


「エクリシウスを、

 倒せるんだろうか……」



 皇子は、

 小さく笑った。


「大丈夫」


「きっと――」


「なんとかなるでしょ」


 そう言いながら。


 腕の中の赤子を、

 優しくあやしている。



 レグルスは、

 呆れたように息を吐いた。


「また、

 楽観的な……」


「まあ、

 それが――」


「いいところでも、

 あるんだが……」



 皇子は笑う。


 そして。


 赤子を、

 高く持ち上げた。



 小さな笑い声。



 皇子も、

 楽しそうに笑っている。



「お前や――」


「団長や先生だっているんだ」


「きっと――」


「なんとかなるさ」



 レグルスの口元にも。


 わずかに、

 笑みが浮かんだ。


「そうだな」


 小さな沈黙。


「それに――」


「お前もいる」



 皇子は、

 何も答えなかった。


 ただ。


 静かに笑っていた。




「レグルス」


「レグルス!」


 声がする。


 レグルスは、

 ゆっくりと目を開いた。


 目の前。


 リオラが、

 顔を覗き込んでいる。



 朝の日差し。


 消えかけた焚き火。



 レグルスは、

 石へ腰掛けたまま眠っていた。



「大丈夫!?」


「珍しいわね」


「こんなに寝るなんて」



 レグルスは、

 一瞬だけ戸惑う。


 夢と現実が、

 まだ重なっていた。


「すまない……」


「もう――」


「朝か……」



 リオラが頷く。


「そうよ」


「そろそろ、

 出発しましょうか」



 レグルスは、

 静かに立ち上がった。


「そうか」


「わかった」



 その様子を。


 少し離れた場所から、

 ミヅキが見つめていた。



 静かな視線。


 ――恐らく。


 ――レグルスは。


 ――普通の人間に、

 戻りつつある。



 風が吹く。



 ――エクリシウスの魔力が。


 ――身体から、

 失われたことで……。



 三人は、

 再びドラゴンの背へ乗った。



 朝の風。



 ドラゴンが、

 大きく翼を広げる。


 次の瞬間。


 巨体は、

 空高く舞い上がった。



 目指す先は。


 太陽の王国。



 風が吹く。



 眼下の景色が、

 少しずつ流れていく。


 山々。


 草原。


 崩れた街道。


 やがて。


 緑は少なくなり。


 大地の色が、

 変わり始める。


 乾いた土。


 まばらな草。


 遠くには、

 砂の広がりも見えていた。



「ねえ、

 あそこ」


 リオラが、

 指を差す。


 進行方向とは、

 違う場所。


 エクリシア王国があった方角。


 レグルスとミヅキも、

 そちらを見る。



 そこには。


 漆黒の影があった。


 空へ向かって伸びる。


 まるで。


 天を支える柱のような。


 巨大な黒。



 リオラが、

 小さく目を細める。


「レグルスが、

 前に見に行った時も――」


「あんな感じだったの?」



 レグルスが、

 静かに首を振る。


「いや」


「俺が前に見た時には――」


「王国全体は、

 影に覆われていたが」


「そこまでには、

 なっていなかった」



 風が吹く。



 リオラが、

 真剣な顔になる。


「やっぱり――」


「時間は、

 あまりなさそうね」


 小さな沈黙。


「急がなきゃ」


 誰も、

 否定しなかった。



 ミヅキは、

 遠くの影を見つめる。


 空へ伸びる黒。


 不気味な柱。


 その姿を見ながら。


 静かに考えていた。


 ――反転の円環。


 ――それで。


 ――あの魔力に、

 対抗できるのか……。



 ドラゴンは、

 なおも空を進んでいく。


 太陽の王国へ向かって――。


ここまで読んで、少しでも面白いと感じていただけたら、

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