第88話 刻まれた光
静まり返った遺跡。
風だけが、
高い空を吹き抜けていた。
レグルス、
リオラ、
ミヅキの三人が。
遺跡の奥を見つめている。
リオラが、
ドラゴンへ振り返った。
「ドラゴンは、
ここで待ってて」
ドラゴンは、
静かに頭を下げる。
リオラも頷く。
そして。
再び、
遺跡の奥へ向き直った。
歩き出しながら、
ミヅキへ問いかける。
「魔力を刻む場所って――」
「どこにあるか、
すぐわかるの?」
ミヅキが、
小さく首を振る。
「どうでしょうか……」
「月の王国の遺跡にあった魔光石も……」
「それを目にするまでは、
何も感じませんでしたから」
リオラが、
小さく息を吐く。
「それじゃあ――」
「何かありそうな場所を、
探していくしかないわね」
三人は、
遺跡の奥へ進んでいく。
崩れた石盤。
壊れた台座。
倒れた柱。
少しでも違和感のあるものを、
一つずつ見て回った。
やがて。
山の中腹に広がっていた平坦な地形が終わる。
再び、
傾斜が急になっていく。
階段状に残る石段。
三人は、
さらに上へ進んだ。
リオラが、
周囲を見回す。
「入り口の方からだと、
気づかなかったけど――」
「まだ上にも、
何かありそうね」
背丈ほどの草。
生い茂る木々。
崩れた石壁。
レグルスが、
先頭を歩く。
剣で草木を払いながら、
道を作っていく。
リオラとミヅキが、
その後ろへ続いた。
その時。
木々の隙間から。
何かが、
一瞬だけ陽の光を反射した。
リオラの目が、
わずかに見開かれる。
「今、
何か光った?」
木々の隙間。
山の上の方で、
一瞬だけ光が反射したように見えた。
リオラが、
その方角を指差す。
「上に、
何かあるかも」
三人は、
足を速めた。
階段状に残る石段を、
さらに上へ進んでいく。
だが。
進むにつれて。
階段の幅は、
少しずつ狭くなっていった。
やがて。
人が一人通れるほどの幅になる。
傾斜も、
さらに急になる。
風が吹く。
眼下には、
森が広がっていた。
そして。
ようやく、
階段が終わる。
そこは。
山頂に近い場所。
ほんのわずかな平地だった。
その中央。
小さな神殿のような建物が、
静かに残されている。
だが。
柱は崩れ。
壁もところどころ失われていた。
長い年月が、
その姿を削っていた。
リオラが、
小さく呟く。
「きっと――」
「ここに、
何かあるわね」
そう言って。
レグルスとミヅキを振り返る。
ミヅキは、
返事をする余裕がなかった。
杖を握り。
肩で息をしている。
リオラが、
小さく笑う。
そして。
何気なく、
来た道の方へ視線を向けた。
「うわっ」
思わず声が漏れる。
眼下には。
天空の遺跡。
そして。
北の遺構。
二つが、
一直線に並んで見えていた。
「すごい景色ね」
リオラの顔が、
自然と綻ぶ。
ミヅキも、
杖へ体重を預けながら顔を上げた。
その景色を見つめる。
静かに息を整える。
――きっと。
――ここに何かある。
山頂へ着いてから。
空気が、
少し変わった。
ミヅキは、
改めて神殿を見渡した。
崩れた柱。
風化した壁。
その奥。
壁面に。
円形のものが、
取り付けられている。
リオラも、
それに気づく。
「これが――」
「怪しいわね」
ゆっくりと近づく。
そして。
壁へ手を触れた。
その瞬間。
空気が変わった。
ミヅキの目が、
大きく見開かれる。
――魔力が、
共鳴している。
壁に取り付けられていた円形のものが。
静かに光を帯び始めた。
陽の光を受け。
その輝きは、
次第に強くなっていく。
次の瞬間。
一筋の光が放たれた。
光は。
眼下に広がる遺跡を横切り。
真っ直ぐ。
北の遺構へ伸びていく。
そして、
一つの区画へ突き刺さった。
「なにこれっ!?」
リオラが、
慌てて後ずさる。
ミヅキは、
その光景を見つめていた。
――空気が、
さらに変わった。
――この地に、
魔力が刻まれた。
風が吹く。
光は。
なおも北の遺構を指し続けていた。
レグルスは。
眼下へ続く、その光を、
静かに見つめていた。




