第70話 明日へ続くもの
朝。
陽の光が、少しずつ差し始める。
冷えていた遺跡に、わずかに温かさが戻る。
人々が、自然と集まり始めていた。
その中心。
リオラが、声を張る。
「今日から、本格的に生活の基盤を作っていくわよ!」
「居住区、食料、水の確保!」
「役割分担して、進めて!」
剣士団を中心に、人々が分かれていく。
水を運ぶ者。
瓦礫をどける者。
居住区を整え始める者。
少しずつ。
遺跡が、人の営みを取り戻していく。
メルクリウスが、数人を連れて歩く。
居住区として使えそうな区画。
崩れた建物。
倒れた柱。
道を塞ぐ、倒木。
足を止める。
「昨日、見て回ったが……」
「この辺りは、使えそうだ」
だが。
視線が、倒木へ向く。
「ただ……」
「倒れた木と柱が、邪魔だな……」
小さく、息をつく。
――レグルス殿に、頼んでみるか……。
しばらくして。
剣士団の一人が、レグルスを連れてくる。
メルクリウスが、前へ出る。
「ここを使いたいのですが……」
「木と柱が邪魔で……」
レグルスが、倒木を見る。
わずかに、眉が動く。
「……お前でも、できるだろ」
メルクリウスが、困惑する。
「さすがに、私には難しいですよ」
レグルスが、木を指差す。
「いいから、切ってみろ」
「力を込めて」
メルクリウスが、戸惑いながら剣を抜く。
構える。
深く、息を吸う。
そして。
振り下ろす。
次の瞬間。
斬撃が、走る。
倒木が、一刀両断される。
さらに。
斬撃の余波が、吹き抜ける。
砕けた木片が、弾け飛ぶ。
風が、抜ける。
周囲が、静まり返る。
メルクリウスの目が、見開かれる。
「えっ……」
「これは……」
レグルスが、静かに口を開く。
「あの時」
「お前の中にも、光が入っていただろ」
視線が、メルクリウスへ向く。
「あれは、最強の剣士の魔力だ」
ミヅキが、剣士たちを連れて歩く。
昨日、見つけた水源へ。
草をかき分ける。
湿った土。
水の音が、わずかに響いている。
ミヅキが、足を止める。
「この辺りに、水路がないか探しましょう」
「中心部まで水を引き込めれば、生活が一気に楽になります」
視線が、周囲へ向く。
――これだけの都市なら。
――水路が整備されていても、不思議ではない。
剣士たちが、散っていく。
草むらや、崩れた石壁。
周囲を、探し始める。
その時。
「ミヅキ様!」
剣士の声。
「こちらに、穴が!」
ミヅキが、駆け寄る。
木と草を、かき分ける。
その下。
石組みの水路跡。
細い空洞が、奥へ続いている。
ミヅキの目が、細まる。
「……おそらく、これですね」
周囲を見渡す。
「あと何人か呼んできて」
「ここに、水が流れるように作業しましょうか」
リオラが、作業する人々を見渡す。
瓦礫を運ぶ者。
水路を整える者。
少しずつ。
遺跡に、人の営みが戻り始めている。
その様子を見届けると。
リオラは、中心部から離れる。
森の近く。
ドラゴンの元へ。
ドラゴンが、リオラに気づく。
静かに、立ち上がる。
リオラが、近づく。
ドラゴンが、頭を垂れる。
リオラが、頭を撫でる。
赤い鱗が、陽の光を反射する。
その時。
リオラが、背後の気配に気づく。
振り返る。
木の後ろ。
子どもたちが、隠れている。
ドラゴンを、見ている。
リオラが、手を振る。
「おーい!」
「こっちに来なよ」
子どもたちが、恐る恐る近づく。
リオラが、笑う。
「大丈夫よ」
「悪さはしないわ」
ドラゴンへ視線を向ける。
「ドラゴン、子どもたちを驚かせちゃダメよ」
ドラゴンが、静かに頭を下げる。
最初は、恐る恐る。
だが。
少しずつ。
子どもたちの表情が、和らいでいく。
笑顔が、広がる。
リオラも、つられるように笑う。
その時。
森の奥。
気配。
リオラの目が、細まる。
「……今度は何?」
大きな影が、見える。
「魔獣!?」
リオラが、身構える。
「何かあったら、頼むわね」
「ドラゴン」
だが。
影が、近づく。
その姿が、はっきりしていく。
リオラの目が、見開かれる。
「……バイソン!?」
「無事だったの!?」
驚き。
そして、安堵。
バイソンが、近づいてくる。
リオラが、その巨体に抱きつく。
バイソンが、低く鳴く。
リオラが、顔を埋める。
「よかった……」
「本当に……」
その背後。
子どもたちの歓声が、上がる。
ドラゴンも、静かに座り込む。
陽の光が、遺跡へ差し込んでいる。
崩れた王国の跡地。
それでも。
少しずつ。
笑顔が、戻り始めていた。




