第60話 帰還、そして反撃
大聖堂。
奥の間。
聖職者たちが、集まっている。
ざわめき。
「いったい、何が起こっている」
「影とは……」
「神の使いではないのか」
「……神の再臨だ」
「その前触れに違いない」
声が、重なる。
大神官の眉が、歪む。
――馬鹿どもが。
何が、神だ。
――魔王エクリシウス。
ようやく手に入れた、この地位を……。
その時。
目が、見開かれる。
……切れた。
ミヅキとの、接続が。
魔力の繋がりが、断たれる。
……何をした。
空気が、変わる。
大神官が、立ち上がる。
「……とにかく」
ざわめきを、断ち切る。
「剣士団に、排除させるしかありません」
「得体の知れないものを」
「王国内に、入れるわけにはいきません」
廊下。
大神官は、足早に進む。
――ミヅキ。
自室の前。
扉を、開ける。
中へ。
静かだ。
――いない。
視線が、走る。
どこにも、いない。
……どこだ。
舌打ち。
――追えない。
魔力の気配が、掴めない。
扉を、閉める。
振り返る。
その時。
衝撃音。
空気が、揺れる。
わずかに、遅れて。
低い、響き。
窓へ。
視線を向ける。
聖地の方角。
――神の間。
土煙が、上がっている。
……何が起きている。
足が、動く。
走る。
東門内側。
破られた門。
瓦礫の向こうから、影が流れ込んでくる。
メルクリウスは、斬り払いながら叫ぶ。
「これ以上、中に入れるな!」
「押し返せ!」
剣士たちが、踏みとどまる。
だが。
影は、止まらない。
内へ進むにつれて、わずかに力が落ちている。
……それでも。
数が、多すぎる。
押されている。
陣が、後退していく。
――その時。
門の外。
土煙。
影が、裂けて消えていく。
「どいてー!」
声。
剣士たちが、道を開ける。
風が、抜ける。
影が、まとめて消し飛ぶ。
その奥。
バイソン。
その背に、二人。
レグルスと、リオラ。
「レグルス殿……!」
「アウローラ様!」
メルクリウスの声。
リオラが、身を乗り出す。
「みんな、大丈夫!?」
「王国は!?」
メルクリウスが、応じる。
「東門は破られましたが」
「ここで、なんとか踏みとどまっています」
「お二人が来てくださらなければ……」
レグルスが、前を見たまま。
「当分は、持つ」
「だが」
「影は、また来る」
視線が、わずかに揺れる。
――魔力が、濃くなっている。
王都の内側から、駆け寄る声。
「アウローラ様!」
剣士が、駆けてくる。
息を切らしている。
「ミヅキ様が……!」
「聖地へ来てほしいと!」
リオラが、言葉を詰まらせる。
「でも……私は……」
剣士が、遮る。
「国の一大事だと……!」
一瞬。
迷い。
だが。
「……わかった」
リオラが、メルクリウスを見る。
「ここは、大丈夫?」
メルクリウスが、頷く。
「立て直せます」
「剣士も集まってきています」
「しばらくは、持ちます」
メルクリウスが、レグルスを見る。
レグルスが、応えるように頷く。
リオラが、息を整える。
「聖地に行くわ」
バイソンを、軽く叩く。
「もう少し、頼むわね」
走り出す。
レグルスの視線が、遠くへ向く。
――エクリシウスが、いる。




