第59話 大賢者の杖、その手に
廊下。
壁に手をつき、ミヅキは歩く。
魔力。
多い。
無数。
……近い。
リオラさんに、似ている。
……太陽の王国の、剣士たち。
エクリシウスが、利用している。
もし――。
神話が、事実を元にしているのなら。
この地にも、残っている。
呼び起こせるものが。
……三英雄。
前方から、足音。
剣士が、駆けてくる。
「ミヅキ様!?」
「大丈夫ですか」
ミヅキは、息を整えきれないまま。
「……今の状況は……?」
「影のような大群が、東門に……」
息を切らしながら、続ける。
「民は、西門の内側へ避難を」
「王族や聖職者にも、伝達済みです」
「私は、東門へ戻ります」
ミヅキが、わずかに顔を上げる。
「……もし」
「リオラさんが戻ったら」
「聖地へ来るように、伝えてください」
剣士が、戸惑う。
「ですが……」
「アウローラ様は、追放の身では……」
ミヅキの声が、わずかに強まる。
「今は、関係ありません」
「国の一大事です」
「……必ず、伝えてください」
「……承知しました」
剣士は、走り去る。
外廊下。
足を引きずるように、進む。
図書館へ。
入口。
司書が、目を見開く。
「ミヅキ様……!?」
ミヅキは、手で制する。
止まらない。
そのまま、奥へ。
静かな空間。
奥。
台座。
――大賢者の杖。
ミヅキが、足を止める。
「……大賢者よ」
声が、かすれる。
「どうか……王国の民を」
「お守りください」
手を、伸ばす。
硝子に、触れる。
ひやりとした感触。
向こう側。
大賢者の杖。
魔力が、滲む。
繋がる。
――限界。
それでも……。
その時。
光が、走る。
杖が、応える。
覆っていた硝子が、弾ける。
音が、響く。
ミヅキの瞳が、揺れる。
……本当に、いいの。
一瞬。
迷い。
だが。
振り切る。
手を、伸ばす。
掴む。
東門。
影が、押し寄せる。
――もう、持たない。
門が、軋む。
破れる。
影が、なだれ込む。
王国内へ。
その時。
剣が、走る。
「大丈夫か」
メルクリウスが、立つ。
「門内に下がれ」
「中で迎え撃つ」
「数を、絞るぞ」
剣士たちが、動く。
陣が、整う。
押し返す。
メルクリウスは、斬りながら問う。
「怪我人は」
近くの剣士が、振り返る。
「二人、退避させました」
「大事には至っていません」
息を整えながら、続ける。
「影は……我々よりも」
「内側へ進むことを優先しています」
メルクリウスの目が、細まる。
――目的があるのか。
旧街道。
バイソンが、駆ける。
その背に、リオラとレグルス。
風が、流れる。
前へ。
岩場。
――神の爪痕。
竜種は、エクリシア王国の方を見ている。
動かない。
視線だけが、そこにある。
リオラが、一瞬だけ見る。
目が、合う。
ような気がする。
だが。
止まらない。
振り返らない。
――間に合え。




