第50話 光のない王国
エクリシア王国。
剣士団の訓練場。
剣が、振られる。
風を切る音。
乾いた打ち込み。
繰り返される動き。
その中で。
メルクリウスの剣だけが、わずかに乱れる。
――集中できていない。
踏み込みが、浅い。
振り切る。
止める。
もう一度。
だが。
同じ。
思考が、残る。
ミヅキの言葉。
――もしもの時は。
あの時の声。
離れない。
剣が、止まる。
息を吐く。
視線が、わずかに落ちる。
――礼拝。
この前の。
姿が、なかった。
理由は、聞かされていない。
だが。
違和感だけが、残っている。
胸の奥。
引っかかる。
拭えない。
メルクリウスは、剣を下ろす。
静かに、決める。
――確かめるべきだ。
一度、城へ。
足が、動き出す。
城内。
石の床。
足音が、響く。
メルクリウスは、歩く。
視線を巡らせる。
すれ違う者たち。
その中で。
ひとり、目に留まる。
聖職者。
足を、止める。
「ミヅキ様に、お会いしたいのですが」
「どこにいらっしゃいますか」
聖職者は、わずかに目を伏せる。
「……お答えできません」
短く、それだけ。
メルクリウスは、眉をわずかに動かす。
次に、別の聖職者へ。
同じ問い。
返ってくるのは、同じ言葉。
「……お答えできません」
空気が、わずかに重くなる。
――隠している。
確信に変わる。
メルクリウスは、歩き出す。
向かう先。
ミヅキの書斎。
扉の前で、足を止める。
ノック。
返事は、ない。
もう一度。
沈黙。
手をかける。
――開かない。
鍵が、かかっている。
気配も、ない。
完全に閉ざされている。
メルクリウスは、ゆっくりと手を離す。
次に向かう。
図書館。
扉を、開ける。
静かな空間。
紙の匂い。
司書が、顔を上げる。
メルクリウスが、歩み寄る。
「ミヅキ様を、お見かけしていませんか」
司書が、少し考える。
「そういえば……」
「ここ数日、お見かけしていませんね」
「ほぼ毎日いらっしゃるのですが」
メルクリウスは、静かに頷く。
「……そうですか」
視線が、落ちる。
――やはり。
胸の奥で、確信が固まる。
ミヅキに、何かが起きている。
城の中で。
何かが、静かに動いている。
メルクリウスは、顔を上げる。
奥歯を、噛み締める。
――アウローラ様。
――レグルス殿。
どうか。
早く――




