第49話 奪われた太陽と月
リオラが、立ち尽くす。
視線は、家の方へ。
少し前まで、そこにあったもの。
それを、見ている。
「ここにも、人がいたのよね……」
「どうして……」
言葉が、続かない。
唇が、わずかに動く。
「王国も……」
そこで、止まる。
飲み込む。
視線を、落とす。
しばらく、何も言わない。
風だけが、通り過ぎる。
リオラが、顔を上げる。
「……戻りましょうか」
小さく。
「洞窟を」
レグルスは、短く頷く。
二人は、バイソンの背に乗る。
来た道を、戻る。
草を踏む音。
足音が、重なる。
リオラは、黙っている。
普段なら、何かしら言葉を落とす。
だが。
今は、違う。
言葉が、出ない。
頭の中に、残る。
生活の形。
残されたままの、家。
火の跡。
――人が、いた。
そして。
もう、いない。
理由は、わかっている。
それでも。
言葉にできない。
やがて、湖が見えてくる。
静かな水面。
その先。
口を開けた、洞窟。
二人は、そのまま進む。
バイソンが水へ入り、波が広がる。
身体が浮く。
水を掻き、岸を離れる。
洞窟へ。
暗がりへ。
光が、遠ざかる。
水音が、響く。
やがて。
再び、暗闇の中へ。
滴る音。
反響する、水の音。
来た道をなぞるように、戻る。
ただ、進む。
出口へ。
洞窟を、抜ける。
光。
空気が、変わる。
リオラが、目を細める。
「これから……」
言葉が、続く前に。
レグルスの視線が、止まる。
わずかに。
空気を、探る。
――違う。
王国の方角。
微かに、歪む魔力。
そして。
ミヅキの気配。
――弱い。
削られている。
レグルスの目が、わずかに見開かれる。
「王国へ戻る」
「ミヅキに、何かあった」
リオラが、顔を上げる。
「どういうこと?」
「わからない」
短く。
「だが、王国でも何かが起きている」
一瞬の沈黙。
リオラが、頷く。
「……わかったわ」
「早く戻りましょう」
バイソンの首を軽く叩く。
「お願いね」
バイソンが、地を蹴る。
進む。
速度が、上がる。
レグルスが、手を伸ばす。
触れる。
魔力を、流し込む。
さらに加速する。
風が、抜ける。
景色が、流れる。
二人の身体が、揺れる。
その中で、ふと。
リオラの手が、止まる。
「あれっ……」
胸元へ。
触れる。
探る。
「……ない」
「ペンダントが、ない」
視線が、揺れる。
「どこで……」
言葉が、途切れる。
レグルスの思考が、走る。
――あの時。
影が、弾けた瞬間。
あの一瞬で。
奪ったのか。
さらに、重なる。
セレナリスの遺跡。
フェンリル。
リオラを狙っていた理由。
すべてが、繋がる。
レグルスが、低く言う。
「おそらく……」
「エクリシウスだ」
「やつが、持っている」
リオラが、息を呑む。
「えっ……」
「あの時!?」
眉が、寄る。
「でも……どうして……」
「目的は、わからない」
レグルスは、前を見る。
「だが」
「何かあるはずだ」
リオラが、唇を結ぶ。
そして。
小さく、頷く。
「……今は、考えても仕方ないわ」
「戻りましょう」
視線を、前へ。
「王国へ」
バイソンが、さらに加速する。
風が、強くなる。
二人は、そのまま。
揺られながら。
王国へと、急ぐ。
「第二章 追放と魔力の行方」までお読みいただき、ありがとうございます。
ここで第二章終わりです。
ここまで読んで、少しでも面白いと感じていただけたら、
ブックマークや評価をいただけると励みになります。
引き続き、お付き合いいただければ嬉しいです。




