第48話 人を喰う影
草を踏む音。
土の感触。
リオラとレグルスは、歩いている。
バイソンは、後ろをついてくる。
家の間を、抜ける。
戸は、開いたまま。
中は、そのまま残っている。
椀。
布。
倒れていない。
生活の形だけが、置き去りにされている。
地面。
焦げた跡。
火を使った痕。
――新しくはない。
だが。
古すぎもしない。
リオラが、周囲を見回す。
「……おかしいわね」
レグルスは、答えない。
歩みは、止めない。
その視線が。
わずかに、変わる。
――感じる。
気配。
濃い。
近い。
空気が、張る。
リオラが、気づく。
「……どうしたの?」
レグルスは、前を見たまま。
答えない。
ただ。
歩く。
開けた場所。
広場のような空間。
その中央。
黒。
濃い。
輪郭が、揺れる。
人の形。
揺れが、消えていく。
――エクリシウス。
黒から、声が落ちる。
「遅かったな、レグルス」
レグルスは、剣を抜く。
魔力が、走る。
そのまま。
左手を、わずかに後ろへ。
――制す。
リオラの足が、止まる。
レグルスは、前だけを見る。
「お前がやったのか……」
エクリシウスが、わずかに笑う。
「……ああ」
「私が、喰ったよ」
視線が、周囲へ流れる。
「こんなところにも、人間が残っていたとは」
次の瞬間。
レグルスの姿が、消える。
踏み込む。
一気に、間合いを詰める。
剣が、振り抜かれる。
――阻まれる。
見えない壁。
だが。
止まらない。
押し込む。
砕く。
刃が、届く。
エクリシウスが、身を引く。
紙一重。
「……まだ、足りないか」
指先が、動く。
魔力が、収束する。
放たれる。
レグルスは、踏み込んだまま。
それを、斬る。
裂く。
散る光。
そのまま。
距離を、詰める。
さらに、振るう。
エクリシウスは、かわす。
受け流す。
動きは、軽い。
「しかし……」
かわしながら、声が落ちる。
「あの王国では……」
刃を、外しながら。
「私は神で……」
わずかに、笑う。
「お前は悪魔だ」
レグルスの剣が、空を切る。
「人間というものは」
一歩、退く。
「本当に、おもしろいな……」
レグルスの剣が、届く。
黒を、捉える。
裂く。
揺れが、乱れる。
「……っ」
声とも、息ともつかない。
黒が、歪む。
――まずい。
わずかに、後退。
次の瞬間。
黒が、収縮する。
一点へ。
集まる。
押し潰されるように。
球体。
小さく。
さらに。
――弾ける。
影が、広がる。
風。
黒い奔流。
視界が、塗り潰される。
レグルスは、踏みとどまる。
剣を、構える。
受ける。
リオラの身体が、揺れる。
「……っ!」
声が、途切れる。
吹き抜ける。
黒が、過ぎる。
そして。
消える。
静寂。
レグルスが、振り返る。
すぐに、駆け寄る。
「リオラ、大丈夫か」
リオラが、息を整える。
「ええ……」
「また、逃げたわね」
レグルスは、答えない。
視線だけが、落ちる。
――同じだ。
繰り返している。
あの時と。
何も、変わらない。
壊されていく。
国が。
人が。
このままでは――
黒が、集まる。
収束する。
静かに。
形を、持つ。
その中に。
光。
ペンダントが、揺れる。
エクリシウスが、笑う。
「アウレリアの……」
「王家の魔力を、手に入れたぞ」
黒が、わずかに揺れる。
光が、沈む。
輪郭が、崩れる。
音もなく。
消える。




