第43話 過去を背に、南の遺構へ
フェンリルの気配は、完全に消えている。
崩れた神殿。
石の床は、割れている。
静けさだけが、残る。
レグルスは、剣を収める。
息を、ひとつ。
視線が、わずかに動く。
――妙だ。
あの軌道。
……俺ではない。
リオラが、歩み寄る。
「急に現れて、びっくりしたわね」
「これもエクリシウスの仕業なの?」
一拍。
「嫌になっちゃう」
レグルスは、リオラを見る。
リオラが、首を傾げる。
「どうしたの?」
「顔に何かついてる?」
レグルスは、首を振る。
「いや」
リオラは、気にせず前を向く。
「まあいいわ」
「遺跡、抜けましょうか」
二人は、歩き出す。
バイソンが、その後ろをついてくる。
視線の先。
岩の間。
下へと続く、階段。
足が、止まる。
リオラが、小さく声を漏らす。
「……あ」
少し、間。
「ここは、やめとこうかしら」
沈黙。
視線が、階段へ落ちる。
「……あなたって」
「ここに、千年いたのよね」
レグルスは、短く答える。
「……ああ」
リオラが、少しだけ眉を寄せる。
「悪いこと、してないんでしょ」
レグルスは、答えない。
視線が、落ちる。
わずかに。
――重さ。
腕の中。
小さな、体。
泣き声。
……赤子。
足は、止まらない。
――セレナリス。
門。
石畳。
人影。
視線。
集まる。
「魔王の魔力が消えたのは……」
「お前がやったのか……」
安堵。
だが。
すぐに、崩れる。
「大賢者様はどうした」
「アウレリア王国から人々の魔力が消えた……」
「いったい何をしていたんだ」
「その赤子はなんだ」
声が、重なる。
近づく。
離れない。
「それにお前の魔力……」
「以前よりも強い……」
「それに魔王のものも感じるぞ」
ざわめきが、変わる。
――恐れ。
「お前は、いったい誰だ……」
腕の中で、泣き声が響く。
レグルスは、ゆっくりと目を上げる。
リオラが、少しだけ肩をすくめる。
「あなたのことだから、何も言わないんでしょうけど……」
一拍。
「まあいいわ。先に進みましょ」
崩れた石の道を、進む。
リオラが、前を見たまま口を開く。
「エクリシウスも、ここを通ったってことは」
「遺跡を巡ってるって感じよね、きっと」
一歩、踏み越える。
割れた石。
「ここを抜けたら、南の遺構へ行きましょうか」
「私は行ったことないけど……」
「昔の街道で、繋がってるはずよ」
レグルスは、何も言わない。
ただ、前を見る。
遺跡の終わりが、近づいてくる。
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