第39話 次なる道と、同行者
山の上の遺跡。
夜の冷えが、まだ残っている。
東の空が、白む。
やがて、
光が、山の端から溢れる。
朝日。
石の残骸が、淡く照らされる。
崩れた柱。
積み上がったままの壁。
影が、長く伸びる。
風が、抜ける。
乾いた、冷たい空気。
リオラが、大きく息を吸う。
「さわやかねー」
腕を伸ばす。
「山の上だからかしら」
視線を、空へ向ける。
「朝日も、綺麗」
少し、笑う。
「ここ、天空の遺跡ってことにするわ」
一拍。
「記録にないしね、私が名付けてもいいでしょ」
レグルスは、何も言わない。
ただ、周囲を見ている。
リオラが、振り返る。
「さ、降りましょうか」
レグルスは、短く頷く。
二人は、歩き出す。
遺跡を、離れる。
石の区画が、背後へと遠ざかる。
朝の光の中に、溶けていく。
斜面を、下る。
朝の光が、差し込む。
足場は、崩れている。
石が転がる。
土が、滑る。
だが、
レグルスの足は、止まらない。
一定の速さで、降りていく。
リオラは、後ろから続く。
息を整えながら。
やがて、
木々が途切れる。
視界が、開ける。
北の遺構。
石の区画が、広がっている。
二人は、足を止める。
リオラが、周囲を見渡す。
「さて、これからどうしよう」
「まあ、王国には帰れないし」
腕を組む。
「街道は……調査隊が通ってるらしいし」
「なら、行けるでしょ」
顔を上げる。
「月の王国の遺跡に、向かいましょうか」
「もしかしたら、エクリシウスも向かってるかもしれないし」
レグルスは、短く頷く。
「……そうだな」
視線は、遠く。
――エクリシウス。
新しい体。
魔力。
すでに、
扱いきれている。
あれだけ漏れていた魔力の気配が、
消えている。
どこにも、気配がない。
街道へ入る。
踏み固められた土。
かすかに残る、轍。
進む。
やがて、
視線の先に、
大きな影。
草を、食んでいる。
低い体。
分厚い首。
湾曲した角。
ーー魔獣。
ゆっくりと、顔を上げる。
こちらを見る。
動かない。
レグルスは、足を止めない。
「俺の後ろにいろ」
距離が、縮まる。
魔獣は、動かない。
リオラが、目を細める。
「……襲ってこないわね」
「どうしたのかしら」
レグルスは、見据えたまま。
――魔力はある。
だが。
……敵意が、ない。
さらに、近づく。
魔獣が、一歩。
こちらへ。
レグルスの手が、わずかに動く。
だが。
止まる。
魔獣は、まっすぐに。
リオラの前で、足を止める。
そして。
頭を、下げる。
リオラが、瞬きをする。
「……え?」
そっと、手を伸ばす。
触れる。
硬い毛。
温度。
「……なにこれ」
撫でる。
魔獣は、動かない。
「……懐いてる?」
少し、笑う。
「ねえ、これ――」
「乗せてくれないかしら」
レグルスは、黙って見ている。
――流れている。
リオラの魔力が、魔獣へ。
……アウレリアの血。
遺跡の影響か。
魔力が、強まっている。
わずかに、口元が緩む。
リオラが、振り返る。
「レグルスも、ほら」
「乗って、乗って」
魔獣は、動かない。
待つように。
二人は、その背に乗る。
巨体が、ゆっくりと動き出す。
街道をなぞるように。
そのまま。
月の王国の遺跡へ。




