第38話 新たな欲望
ミヅキの書斎。
――大神官の書物が正しければ。
千年前。
レグルス……勇者が、
エクリシウス……魔王を、倒した。
大神官の一族は、
レグルスの力を恐れ、
千年の刑に課した。
悪魔として、
歴史を、書き換えた。
いつからか、
名はアンタレスとなったようだが……。
――真実かは、わからない。
だが。
あの黒いもの。
あの魔力。
……魔王と呼ばれる方が、
自然だ。
扉が、叩かれる。
ミヅキは、視線を上げる。
「どうぞ」
扉が、開く。
入ってきたのは、
新たに選ばれた、大神官。
ミヅキは、動かない。
視線だけを向ける。
「どうなさいました?」
大神官は、一礼する。
「新任のご挨拶をと思いまして」
顔を上げる。
その視線が、
書斎を、なぞる。
棚。
並び。
わずかな、空白。
ミヅキは、気づいている。
――書物を、探している。
……当然か。
ミヅキは、静かに立ち上がる。
「そうでしたか」
「この度の選出、お喜び申し上げます」
「神のため、務めてください」
大神官は、わずかに頷く。
「ええ、共に」
「加護があらんことを」
差し出される手。
ミヅキは、迷わず応じる。
触れる。
一瞬だけ。
温度は、ない。
離れる。
大神官は、微かに笑みを浮かべる。
「それでは」
踵を返す。
扉が、閉まる。
ミヅキは、息を吐く。
椅子に、腰を下ろす。
――自室に、隠しておいてよかった。
だが。
疑われている以上、
このままでは済まない。
視線が、わずかに落ちる。
――エクリシウス。
まだ、魔力を集めているはずだ。
今、どこにいる。
どこへ、向かっている。
だが――
いずれ。
戻ってくる。
そんな気がする。
目を、細める。
魔力を集めるために、
あの一族は、この地へ移った。
……ならば。
この地は。
……魔力が、集まる場所。
大神官は、廊下を歩く。
足は、止まらない。
――証拠はない。
だが。
先代の書物を、抜き取ったのは。
ミヅキだ。
間違いない。
視線が、わずかに落ちる。
――あの魔力。
思い出す。
触れた、瞬間。
わずか。
それだけで。
……異質。
眉が、わずかに動く。
なぜだ。
なぜ、あのようなものを持っている。
歩みは、変わらない。
だが――
思考は、別へ向く。
……使える。
あの魔力。
手に入れることができれば。
視線が、わずかに細まる。
千年、積み上げた魔力は、
エクリシウスとなった。
ならば。
――私も。




