第36話 魔王と呼ばれていた
リオラが、息を呑む。
「あれが……」
一拍。
「エクリシウス……」
視線が、揺れる。
「あれが、神様?」
黒の塊。
形は、定まらない。
だが――
そこに、ある。
「昔は、」
低く、声が落ちる。
「ここにも、魔力が眠っていることに気づかなかった」
レグルスは、目を細める。
「麓の国……やはり、お前か」
「そうだ」
即答。
「魔力を奪うためにな」
一拍。
「大昔の話だ」
レグルスは、剣を構える。
魔力を、流す。
強く。
「その剣……」
黒が、揺れる。
「その魔力……」
踏み込む。
斬撃が、飛ぶ。
黒が、歪む。
間一髪で、避ける。
「あの時のように――」
揺れる。
「消えかけてたまるか」
「……僅かに、残ることができた」
次の瞬間。
距離が、消える。
レグルスは、間合いに入っている。
一閃。
黒が、裂ける。
影の一部が、吹き飛ぶ。
悲鳴が、響く。
「――ッ」
黒が、揺れる。
形が、崩れる。
「だが……」
後退しながら、揺れる。
「私は、幸運だ」
斬撃を、紙一重で避ける。
「セレナリスの賢者が」
一拍。
「魔力を、運び込んだ」
レグルスの視線が、僅かに動く。
「……ここで、止める」
踏み込む。
さらに、詰める。
「まずい……まだ……」
後退する。
「魔力を、集めなければ……」
黒が、薄れる。
その影が、わずかに揺れる。
霧のように。
消える。
静けさが、戻る。
リオラが、息を吐く。
「消えた……」
一歩、踏み出す。
足音が、遅れて響く。
レグルスのもとへ、駆け寄る。
視線が、揺れる。
消えた場所を、見たまま。
「あれって……大神官だったのよね」
「それが今は、エクリシウス?」
「神様なの?」
言葉が、重なる。
「いったい、なんなの……」
レグルスは、動かない。
視線は、前に向いたまま。
「……わからない」
「千年前は――魔王と呼ばれていた」




