第34話 真実の断片
書斎の奥。
背表紙のない本の棚。
「……これは」
並んでいる。
紙の束。
揃っていない。
だが、乱れてもいない。
ミヅキは、手を伸ばす。
端の一冊を抜き取る。
軽い。
だが、脆い。
紙の質。
色。
古い。
頁を、開く。
古い文字。
千年ほど前のもの。
見慣れてはいる。
完全ではないが、拾える。
断片。
……エクリシウス。
……死。
指が、止まる。
次の行。
……大賢者。
……死。
わずかに、息が詰まる。
さらに、下。
……封印。
長い時間。
……千年。
頁を、追う。
引っかかる。
ここは――
残されている書物では、消えている。
目を細める。
文字を、なぞる。
……レ。
……グ。
……ル。
……ス。
「……レグルス」
小さく、落ちる。
封印されたものの名。
彼の名。
視線が、揺れる。
――やはり。
あの大神官は、
これを、見ている。
この一族にしか、
伝えられていないものがある。
ミヅキは、別の束に手を伸ばす。
一つ、抜き取る。
頁を、開く。
――同じだ。
エクリシウス。
大賢者。
封印。
書かれている内容は、変わらない。
だが――
筆が、違う。
書き手が、違う。
ミヅキは、もう一冊、手に取る。
また、同じ。
繰り返されている。
代を越えて。
さらに、別の一冊。
頁を、開く。
……違う。
言葉が、近い。
完全ではない。
だが――
読める。
セレナリス…王国。
指が、止まる。
……セレナリス。
私の名。
王家の名。
だが――
記され方が、違う。
視線が、揺れる。
次の行。
国の、魔力。
……欠乏。
一族が……三百年近く。
……終わらせるわけにはいかない。
別の束に、手を伸ばす。
紙の質が、違う。
並び方も。
揃っている。
順に、積まれている。
視線を、落とす。
表紙に、文字。
名だ。
一つ、一つ。
違う。
筆跡も、違う。
書いた者の名――。
わずかに、息を止める。
同じものを、
代々、積み重ねている。
指が、滑る。
新しいものへ。
紙が、まだ固い。
墨の色も、濃い。
表紙の名を、追う。
そして――
止まる。
見覚えがある。
先代の、大神官。
あの名。
視線が、わずかに揺れる。
……エクリシウスに、呑まれた。
その男が、書いたもの。
手に、取る。
重い。
紙の重さではない。
積み重なったものの、重さ。
わずかに、息が止まる。
――先代の、大神官。
その名。
……。
ふと、
顔を上げる。
静かだ。
――どれくらい。
時間の感覚が、曖昧になる。
小さく、息を吐く。
……まずい。
長く、留まった。
視線を、落とす。
手の中の、本。
これを、戻すか。
わずかに、迷う。
――次は、ない。
指に、力が入る。
抱え直す。
扉へ、向かう。
音を、殺す。
手を、かける。
わずかに、開く。
外。
誰も、いない。
一歩。
外へ出る。
扉を、閉じる。
振り返らない。




