第33話 背表紙のない本の棚
神議の間。
扉が、開く。
淡い光が、差し込む。
円卓。
中央に、据えられている。
すでに、
国王と女王、
そして十人の聖職者が、席についている。
視線が、集まる。
「ミヅキ皇女は、そちらへ」
聖職者の一人が、空席を示す。
ミヅキは、頷く。
そのまま、歩く。
席に着く。
初めてだ。
この場に、入るのは。
私が生まれた時には、
すでに、あの大神官だった。
円卓の奥。
一人の聖職者が、口を開く。
「揃いましたか」
一拍。
「それでは、大神官選定の儀に移ります」
――儀。
ミヅキの視線が、わずかに揺れる。
何が、儀だ。
すでに、決まっている。
私たちは、
それを、確認するだけだ。
「その前に」
別の聖職者が、口を挟む。
「ミヅキ皇女」
「神を冒涜する発言があったと、報告を受けています」
空気が、わずかに張る。
「今後、同様の言動があれば」
「皇女といえど、裁きの対象となります」
「お忘れなきよう」
視線が、落ちる。
「……では、儀に」
議長が、淡々と続ける。
「魔光石に触れていただきます」
「最も強い光を示した者を、候補とし」
「その後、国王陛下の承認をもって」
「大神官と定めます」
祭壇。
その上に、魔光石が置かれている。
一人。
また一人。
聖職者が、手を触れる。
光が、揺れる。
強く。
弱く。
やがて――
一つ。
際立つ光。
「……こちらの者が、候補となります」
議長が、告げる。
ミヅキは、目を伏せる。
やはり。
あの一族だ。
「国王陛下」
「ご承認いただけますか」
国王が、ゆっくりと頷く。
「……承認する」
「承認が得られました」
「ここに、新たな大神官の選定を宣言します」
候補者が、立ち上がる。
深く、頭を下げる。
「この任を賜り、感謝いたします」
一拍。
「神は、再びこの地に現れました」
「その御意志のもと」
「我らに、加護があらんことを」
「ともに、務めを果たしましょう」
拍手は、ない。
ただ、静かに終わる。
ミヅキは、目を閉じる。
あれが――神。
何を、信じればいい。
神議の間を、出る。
扉が、閉じる。
廊下の先から、声が流れてくる。
聖職者たち。
すでに、神事の準備に入っている。
灯りが、増えている。
人が、集まっている。
――始まる。
視線を、伏せる。
この後、
聖職者たちは聖地に籠る。
外には、出てこない。
……誰も、来ない。
……今日しかない。
足を、進める。
人の流れとは、逆へ。
奥へ。
さらに奥へ。
静けさが、濃くなる。
やがて、
扉の前で、止まる。
装飾は、ない。
だが――
ここから先は、違う。
一族の領域。
手を、かける。
わずかに、躊躇。
――開ける。
書斎。
扉を、閉める。
音が、やけに大きく響く。
息を、潜める。
誰もいない。
だが――静かすぎる。
視線を、巡らせる。
整然と並ぶ書物。
神話。
儀式。
記録。
どれも、見覚えのあるもの。
だが――
奥へ。
足を、進める。
突き当たりの本棚。
そこだけ、空気が違う。
背表紙が、ない。
紙の束が、並んでいる。
揃っていない。
だが、乱れてもいない。
ミヅキは、目を細める。
「……これは」




