第27話 千年の器
神の間。
中央。
大神官。
胸に――黒いもの。
凝縮された魔力が、押し込まれている。
空間が、歪む。
「……これは」
担がれたまま、ミヅキの声が漏れる。
レグルスは止まらない。
そのまま間合いを詰める。
振り抜く。
剣が、黒へ届く。
――弾かれる。
重い。
返された衝撃が、腕に走る。
そのまま――弾き飛ばされる。
床を滑る。
体勢を崩しかける。
「っ……」
踏みとどまる。
距離が開く。
体勢を立て直す。
その場で、ミヅキを下ろす。
間を置かず、踏み込む。
剣に、魔力を流す。
間合いを詰める。
もう一度、振る。
刃が、黒に触れる。
止まる。
押し込む。
わずかに、めり込む。
――手応え。
だが、
次の瞬間。
軋む。
耐えない。
――弾ける。
剣が、折れる。
衝撃で、後ろへ流される。
距離が開く。
踏みとどまる。
間合いを取り直す。
沈黙。
「……来た、か」
大神官が言う。
ゆっくりと顔を上げる。
目が合う。
笑っている。
「銀の髪」
一拍。
「言い伝え通りだ」
「堕英雄アンタレス……いや、レグルスか」
ミヅキは、言葉を失う。
やはり、という確信。
だが――
なぜ、それを知っている。
思考が、追いつかない。
「我が一族が、千年かけた魔力だ」
大神官が、笑みを深める。
黒が、収まる。
すべてが、大神官の内へと沈む。
一瞬の静寂。
空間の歪みが、ほどけていく。
――次の瞬間。
裂けるような声。
雄叫びとも、悲鳴ともつかない。
耳の奥に、直接叩き込まれる。
大神官の身体から、黒い魔力が噴き出す。
満ちる。
溢れる。
「……この魔力は」
レグルスの声が、低く落ちる。
再び、静寂。
そして――
大神官が、笑う。
だが――その声は、もう違う。
レグルスが、低く言う。
「お前の奥底に、感じる……」
一拍。
「……エクリシウス」
その名が落ちる。
ミヅキの息が、止まる。
「……あれが、神……?」
笑みが、深まる。
「久しぶりだな」
「千年、か……」
目の前にいるのは、もう大神官ではない。
レグルスは踏み込む。
腕に、魔力を叩き込む。
間合いを潰す。
そのまま――打ち込む。
拳が届く。
だが、止まる。
見えない膜。
結界。
衝撃が外へ逃げる。
背後の壁が、砕ける。
「そう焦るな」
エクリシウスの声。
レグルスの意識に、違和感が走る。
引かれる。
魔力が、わずかに奪われる。
即座に距離を取る。
「それは、私のものだ」
一拍。
「いずれ、返してもらう」
エクリシウスの輪郭が、揺らぐ。
黒がほどける。
形が崩れる。
霧のように、消える。
残るのは、揺らぎだけ。
遅れて、衝撃が走る。
空気が、揺れる。
足音。
複数。
剣士団が、神の間へ駆け込んでくる。
「これは、一体……」
壁が、
崩れている。
大きく、
抉れている。
石が、
砕け、
床に散っている。
――一撃で。




