第25話 お祈りの日
広い空間。
石の床。
ひび割れ。
崩れた跡。
その中央。
――甲冑。
人の形。
だが、
大きい。
二倍では足りない。
見上げる。
影が、
滲む。
甲冑の隙間から、
黒いものが、
溢れている。
揺れている。
呼吸のように。
レグルスと、
皇子。
二人、
向き合う。
踏み込む。
剣が、走る。
当たる。
――弾かれる。
重い音。
浅い。
通らない。
「……なかなか通らないな」
レグルスが、
低く言う。
甲冑が、
動く。
一歩。
床が、
鳴る。
次の瞬間、
突進。
二刀が横薙ぎに走る。
空気が、
裂ける。
レグルスと皇子、
同時にかわす。
すれ違いざまに、
斬る。
だが――
やはり、
浅い。
「……やるしかねえな」
皇子が、
吐き捨てる。
レグルスが、
わずかに視線を向ける。
甲冑が、
再び踏み込む。
速い。
重い。
レグルスは、
かわす。
――間に合わない。
皇子は、
そのまま受ける。
「皇子!」
衝突。
剣と剣。
火花。
押し込まれる。
「くそったれ!」
皇子が、
踏みとどまる。
無理やり、
弾く。
踏み込む。
懐。
甲冑の隙間へ――
突き立てる。
止まる。
だが――
次の瞬間。
突進の勢い。
そのまま、
叩きつけられる。
壁。
衝撃。
石が、
砕ける。
皇子の身体が、
壁にめり込む。
甲冑は、
そのまま。
覆いかぶさるように、
止まる。
一瞬。
動かない。
レグルスが、
踏み込む。
剣。
一閃。
甲冑が、
弾き飛ぶ。
離れる。
転がる。
止まる。
静寂。
レグルスが、
振り向く。
「皇子!!」
壁際。
座り込んでいる。
動かない。
胸に――
剣。
深く、
刺さっている。
血が、
流れる。
皇子が、
わずかに笑う。
「……悪いな」
一拍。
「ここまでだ」
呼吸が、
浅い。
「団長が、
命をかけてくれたのに……」
一拍。
「もし、
俺の息子が――」
息が、
揺れる。
「……生きていたら」
一拍。
「お前の父親は、
立派だった……って、
伝えてくれ」
わずかに、
視線が揺れる。
「……魔王を、倒せ」
息が、
止まる。
静かに。
崩れる。
動かない。
レグルスは、
見ている。
言葉は、
ない。
ただ――
立っている。
――同じ場所だ。
記憶が、
途切れる。
「ちょっと」
リオラが顔を覗き込む。
「どうしたの? また、ぼーっとしてる」
「……いや」
短く返す。
前方には、人々が並んでいる。
白い衣。
整った列。
最前列では、
王族たちが頭を垂れ、祈りを捧げていた。
その先。
祭壇。
白い衣の男が、立っている。
大神官。
静かに、祈りを導いている。
リオラがそちらを指す。
「ほら……あれが、私とミヅキの両親」
一拍。
「滅多に会わないんだけどね」
視線はすぐに外れる。
「おっ、メルク」
「おはよう。お勤めご苦労様」
脇の警備位置に、メルクが立っている。
「おはようございます」
一礼。
「レグルス殿も、いらっしゃるとは」
「何事も経験よ」
リオラが笑う。
「さ、後ろに並びましょ」
三人は列へ入る。
足を止め、頭を垂れる。
静かだった。
声はない。
だが――流れている。
レグルスの意識が、わずかに上を向く。
感じる。
魔力が、上へ。
集まっている。
――やはり。
目を閉じる。
違和感は、消えない。




