第23話 繋がらないまま
静かな書斎。
ミヅキは、
壁画の記録を見ていた。
太陽の王国。
人々。
神へと向かう列。
そして――
裏切り。
描かれている。
だが、
おかしい。
一夜で滅びたはずだ。
ならば――
あの壁画は、
いつ、
描かれた。
なぜ――
この形で残っている。
指が止まる。
静かに、
考える。
これは、
出来事の記録ではない。
――解釈……か。
誰かが、
そう読ませようとした――のか。
堕英雄アンタレス。
悪魔。
千年の封印。
伝えられている内容を、
頭の中でなぞる。
太陽の王国を、
一夜で滅ぼした存在。
それを――
月の王国の賢者が、
封じた。
視線が、
わずかに揺れる。
そんな力が、
あったのか。
あるいは――
足音が、
石畳に響く。
乾いた音。
訓練場。
討伐を終えた一行が、
戻ってきた。
先頭はメルクリウス。
その後ろに、
レグルス。
数名の剣士団が続く。
その姿を見て――
「お疲れ様ー」
リオラが、
手を上げた。
「どうだった?」
軽い調子。
いつも通りだ。
メルクリウスが、
一歩前に出る。
「レグルス殿のおかげで、
討伐は順調に進みました」
一拍。
「しかし――」
わずかに、
表情が引き締まる。
「やはり、
以前とは違う何かを感じます」
レグルスは、
短く答える。
「俺は、
以前を知らないが――」
一拍。
「不気味だな」
メルクリウスが頷く。
「やはり、
レグルス殿も」
リオラが、
肩をすくめる。
「そんな暗い顔しないでよ」
少し笑う。
「まあ、
みんながいれば大丈夫でしょ」
軽い。
空気が、
少し緩む。
メルクリウスも、
わずかに表情を緩める。
「そうですね」
一拍。
「レグルス殿の助けもあり、
本日の被害は軽微です」
周囲を見る。
「このまま鍛錬を重ね、
王国を守っていきます」
剣士たちが、
静かに頷いた。
言葉はない。
だが、
それぞれが、
動き出す。
廊下。
夜の静けさ。
リオラが振り返る。
「じゃあね」
軽く手を振る。
「明日、
迎えにくるから」
「お祈りの日だし」
いつもの調子で言う。
そのまま、
歩いていく。
足音が、
遠ざかる。
レグルスは、
その場に残る。
すぐには動かない。
背中を、
見ていた。
――魔獣。
思考が、
そちらへ向く。
様子が、
おかしい。
あれほどの数。
だが――
怯えない。
逃げない。
こちらへ来る。
理由がある。
レグルスは、
ゆっくりと視線を上げる。
王都の中心。
聖地。
――かつての魔王城。
何も言わない。
あれくらいの魔獣なら、
魔力で退く。
だが――
違った。
自分に向かっていたのか。
違う。
もっと別の何か。
この場所に、
何かがある。
目を閉じる。
――明日。
少しは、
見えるかもしれない。




