第22話 かすかな歪み
夜。
静まり返った部屋。
レグルスは、
目を閉じていた。
――あの聖職者。
白い衣。
整った所作。
だが――
違う。
魔力は、
薄い。
だが、
奥に何かがある。
歪んでいる。
ゆっくりと、
目を開ける。
何も言わない。
――まだある。
一拍。
何かを、
見落としている。
視線が、
わずかに動く。
この国。
この場所。
強くはない。
魔力。
だが――
澄んでもいない。
混じっている。
いくつものものが、
重なっている。
どこか、
噛み合っていない。
レグルスは、
それ以上考えなかった。
朝。
軽いノック。
返事を待たずに、
扉が開く。
リオラだった。
「そういえば」
部屋に入りながら言う。
「遺跡から持って帰ってきた、
あなたの剣」
一拍。
「鞘も、
持ち手もないでしょ?」
軽く笑う。
「メルクのところに持って行きましょ」
間を置かず。
「ついでに、
訓練も付き合ってあげてよ」
レグルスは、
布に包まれた剣を手に取る。
そのまま、部屋を出た。
石の廊下。
足音が、静かに続く。
剣士団の訓練場。
乾いた音が、響いている。
「メルク」
リオラが声をかける。
「この剣さ、
使えるようにしてあげてよ」
レグルスは、
剣を差し出す。
メルクは、布を解いた。
剣を見る。
わずかに、眉が動く。
「……形が違いますね」
一拍。
「我々のものとは、
少し」
わずかに、
刃を確かめる。
だが、
それ以上は言わない。
「承知しました」
「整い次第、お持ちいたします」
一拍。
メルクは、視線を上げる。
「レグルス殿」
「一つ、ご相談が」
静かに言う。
「最近、魔獣の動きが妙です」
一拍。
「数も増えていますが――」
「逃げない」
言葉を選ぶ。
「こちらへ、
寄ってきているような」
わずかに間。
「剣士団でも対応しておりますが、
手こずっております」
頭を下げる。
「お力を、お借りできれば」
メルクは、
一振りの剣を差し出す。
「整備が済むまで、
こちらをお使いください」
「おっ」
リオラが笑う。
「腕の見せ所じゃん」
軽い調子で言う。
「私は、お祈りの日の用事で呼ばれてるから」
振り向く。
「あとは頼むねー」
足音が、
遠ざかる。
砂の上。
風が流れる。
メルクを先頭に、
レグルスと、
数名の剣士団。
街道を外れた場所。
太陽の王国の遺跡へと続く、
砂の地。
魔獣がいた。
狼に似た姿。
群れ。
十ほど。
レグルスは、
魔力を放つ。
空気が張り詰める。
だが――
止まらない。
目も逸らさない。
ただ、
こちらへ来る。
レグルスが、
手を上げる。
メルクたちを制する。
一歩。
前に出る。
剣を構える。
わずかに、
魔力を流す。
刃が、
静かに応じる。
横に払う。
音は、ほとんどない。
次の瞬間――
魔獣の群れが、
崩れた。
砂が、
わずかに舞う。
メルクが、息を飲む。
「……これは……」
言葉にならない。
レグルスは、剣を見る。
刃が、
折れている。
「……すまない」
静かに言う。
「使えなくなった」
メルクが頭を下げる。
「申し訳ありません」
一拍。
「この剣では、
耐えられなかったようです」
レグルスは、
顔を上げる。
「……まだいるな」
視線が、
奥を捉える。
「もう少し行こうか」
誰にともなく言う。
砂の先。
気配がある。
――おかしい。
確かに、
違う。
レグルスは、
歩き出した。
気配は、
消えない。
次の群れ。
数は多くない。
だが――
同じだ。
逃げない。
目も逸らさない。
ただ、
こちらへ来る。
レグルスは、一歩引いた。
視線だけを向ける。
メルクが前に出る。
「前へ!」
短い号令。
剣士たちが動く。
足並みは揃っている。
無駄がない。
連携も崩れない。
レグルスは、
動かない。
見る。
判断する。
――十分だ。
だが、
一体が、
間合いを崩した。
踏み込みが速い。
不自然に。
レグルスが、
動く。
一歩。
踏み込む。
腕を振る。
それだけで、
魔獣の身体が崩れる。
音は、
遅れて届く。
後方。
メルクが指示を飛ばす。
「間合いを詰めすぎるな!」
剣が走る。
正確だ。
無駄がない。
一体。
また一体。
確実に仕留めていく。
連携も崩れない。
――強い。
レグルスは、
視線だけを向ける。
剣士団の中でも、
頭一つ抜けている。
だが――
違和感は消えない。
倒れても、
止まらない個体がいる。
わずかに動く。
遅れて崩れる。
統一されていない。
ばらつきがある。
それでも、
すべてが同じ方向を向いている。
砂の先。
まだいる。
気配が続いている。
途切れない。
レグルスは、
わずかに目を細めた。




