第21話 ひび割れるもの
図書館。
同じ部屋の中で、
三人は、それぞれの場所にいた。
ミヅキが、
ふと口を開く。
「リオラさん」
一拍。
「月の王国の遺跡で出会ったと、
言っていましたよね」
視線は本のまま。
「何か、
変わったことはありませんでしたか」
リオラは少し考える。
「変わったこと?」
首を傾げる。
「うーん……」
「まあ、
おかしな人ではあるけど」
軽く笑う。
「遺跡のことで言うと――」
一拍。
「地下に部屋があったよ」
ミヅキの指が、
わずかに止まる。
「初めて行った時は、
なかった気がするけど」
軽く言う。
ミヅキは何も言わない。
――地下。
封印。
神話の記述。
だが――
記録にはない。
調査報告にも。
残っていない。
「地下には、
何かあったんですか」
静かに問う。
「いや」
リオラは首を振る。
「何もなかったかな」
「鎖が落ちてるくらい?」
あっさり言う。
ミヅキは、
答えない。
ただ、
考えている。
机の上に、
小さな石があった。
淡く光っている。
ミヅキがそれを手に取る。
魔光石。
魔力に反応する石。
ミヅキは、
レグルスを見る。
「レグルスさん」
一拍。
「少し、
いいですか」
返事を待たずに、
石を近づける。
――反応しない。
光は、
変わらない。
ミヅキの目が、
わずかに揺れる。
――どうして。
これほどの魔力に。
なぜ。
反応しない。
だが――
表情は変えない。
「……失礼しました」
静かに言う。
石を、
元の場所に戻す。
それ以上は、
何も言わなかった。
机の上。
石の光が、
静かに消える。
わずかに――
ひびが入る。
音は、
誰にも届かなかった。
図書館を出る。
外の空気。
光が少し強い。
ミヅキが、
足を止めた。
視線を上げる。
聖地。
静かに広がる空間。
「この地は」
ゆっくりと口を開く。
「神の魔力に覆われていると、
言われています」
一拍。
「ですが――」
わずかに、
言葉を選ぶ。
「私は、
あまり良いものには感じません」
それ以上は言わない。
視線は、
外さない。
レグルスもまた、
同じ方向を見ていた。
――聖地。
その奥。
かつての城。
何も言わない。
「そういえば」
リオラが軽く言う。
「もうすぐ、
お祈りの日よね」
振り向く。
「レグルスも、
来る?」
少し笑う。
「英雄たちの間までは、
入れるからさ」
一拍。
「一番上は神の間で、
滅多に入れないんだけど」
軽く肩をすくめる。
「その下なら、
たまに開放されるの」
間を置かず。
「せっかくだし、
一緒に行きましょ」
リオラが言う。
レグルスは、
答えない。
ただ――
視線を上げる。
聖地。
その上。
さらに奥。
見えないはずの場所を、
見ていた。
――上層。
かつての魔王城。
静かに、
そこにある。
やがて、
視線が戻る。
何も言わないまま、
レグルスは歩き出した。
三人は、
並んで廊下を進む。
足音だけが、
静かに響く。
向こうから、
一人の聖職者が歩いてきた。
白い衣。
整った足取り。
ミヅキとリオラが、
足を止める。
軽く会釈。
「こんにちは」
リオラが言う。
ミヅキも、
静かに頭を下げる。
「お疲れ様です」
聖職者も、
静かに応じる。
すれ違う。
一瞬。
その視線が、
レグルスの銀色の髪に、
止まった。
だが――
それだけだった。
何も言わず、
そのまま、
通り過ぎていく。
レグルスは、
振り返らない。
「……今のは」
小さく問う。
「大神官です」
ミヅキが答える。
「聖職者のなかで、
最も地位の高い方です」
レグルスは、
何も言わない。
姿が見えなくなってから、
「……あの人、苦手なのよね」
リオラが、
ぽつりと呟く。
三人はそのまま、
歩き続けた。




