第20話 遺された杖
図書館の中を、
三人は歩いていた。
先を行くミヅキ。
その後ろを、
レグルスがついていく。
本棚の間を、
一定の距離で。
リオラは――
少し離れた場所で、
別の棚を見ている。
足を止めたり、
気まぐれに視線を動かしたり。
だが――
完全に離れることはない。
同じ空間の中で、
それぞれが動いていた。
静かな時間が流れる。
やがて――
レグルスが口を開く。
「月の王国は」
一拍。
「なぜ、ここに移った」
ミヅキは、
少しだけ考えた。
「はっきりした理由は、
わかっていません」
静かに言う。
「二つの王家がこの地に移り、
エクリシアが建国されたのが、
およそ七百年前」
一拍。
「その頃の記録は、
極端に少ないんです」
視線を落とす。
「……推測になりますが」
少しだけ間。
「月の王国の力が、
弱くなっていた可能性があります」
レグルスは、
何も言わない。
ミヅキは続ける。
「もともとあの土地は、
外敵が多い場所でした」
「賢者たちの魔力で、
守られていたと考えられています」
一拍。
「ですが」
「その力が、
維持できなくなった」
顔を上げる。
「……だから」
「この場所に移った」
軽く周囲を見る。
「この一帯は、
特殊な魔力に覆われています」
「外からの侵入を、
遮るような」
一拍。
「神の遺したものだと、
言われていますが……」
わずかに首を振る。
「真実は、わかりません」
静けさが戻る。
レグルスは、
「……そうか」
小さく呟いた。
ミヅキが、
奥の一角へと歩く。
「こちらです」
展示の区画。
静かな空間。
ガラスの中。
一本の杖が、
置かれている。
細い。
飾り気はない。
だが――
目を引く。
説明書き。
大賢者の杖。
レグルスの足が、
止まる。
ありえない。
そのはずだった。
だが――
そこにある。
変わらない形で。
静かに。
「大賢者が使用していた杖と、
伝えられています」
ミヅキの声。
「王家がこの地に移った際に、
発見されたものだそうです」
レグルスは、
何も言わない。
ただ――
見ている。
わずかに、
残っている。
魔力が。
触れなくてもわかる。
消えていない。
あの時のまま。
微かに。
だが確かに。
胸の奥が、
揺れる。
言葉にはならない。
ただ、
視線だけが、
離れなかった。
時間だけが、
静かに過ぎていく。




