第120話 隔絶
聖地。
かつて中央塔が存在した場所。
この世界の中心だった場所。
今は見る影もない。
瓦礫の山。
崩れた城壁。
砕けた石畳。
その全てが。
エクリシウスの魔力によって圧縮されたように、
歪な地形を形成していた。
その中央で。
レグルスとエクリシウスは向かい合う。
互いに一歩も動かない。
静寂。
吹き荒れる黒い魔力だけが周囲を満たしていた。
レグルスは剣を抜く。
そして。
魔力を流し込んだ。
銀色の光が刀身を包む。
次の瞬間。
レグルスの姿が消える。
一気に間合いを詰める。
鋭い一閃。
エクリシウスへ斬りかかった。
だが。
エクリシウスは動かない。
片手を上げる。
そして。
レグルスの剣を素手で受け止めた。
轟音。
衝撃が周囲へ広がる。
レグルスは止まらない。
二撃。
三撃。
連続で斬りつける。
だが。
全て受け止められる。
届かない。
レグルスは距離を取った。
さらに魔力を込める。
剣が強く輝いた。
そして。
一閃。
巨大な斬撃が放たれる。
一直線に。
エクリシウスへ向かう。
直撃。
轟音と共に土煙が舞い上がった。
だが。
次の瞬間。
黒い魔力が噴き上がる。
土煙が吹き飛ばされた。
そこには。
傷一つないエクリシウスが立っていた。
「こんなものか……」
静かな声。
エクリシウスはレグルスを見る。
「千年前……」
わずかな沈黙。
「俺を死の淵へ追いやった男とは思えんな」
黒い魔力が揺らぐ。
「この程度だったか……」
「俺はお前を恐れた」
わずかな沈黙。
「お前の力を」
「お前という存在を」
静かな殺気。
「弱い……」
わずかな間。
「弱過ぎる……」
次の瞬間だった。
エクリシウスの姿が消える。
レグルスの瞳が揺れる。
見失った。
どこだ――。
そう思った瞬間。
背後に気配。
気づいた時には。
エクリシウスが立っていた。
黒い魔力が振るわれる。
轟音。
レグルスの身体が吹き飛んだ。
瓦礫を砕く。
崩れた城壁へ叩きつけられる。
激しい衝撃が周囲へ広がった。
上空。
ドラゴンの背から。
リオラとミヅキは地上を見下ろしていた。
レグルスとエクリシウスが対峙している。
だが。
優勢なのは誰の目にも明らかだった。
リオラが身を乗り出す。
「レグルス!」
思わず叫ぶ。
「早くしないと……!」
焦りを隠せない声。
そして。
「でも……」
唇を噛む。
「どうしたら……」
視線の先では。
レグルスが吹き飛ばされていた。
リオラは拳を握り締める。
一方。
ミヅキは周囲へ視線を巡らせていた。
崩れた城。
残された城壁。
砕けた石畳。
かつて聖地と呼ばれていた場所。
その全てを見渡す。
「中央塔から直接地下へ行けるような場所は……」
静かな声。
「なかったはずです」
脳裏に浮かぶ。
かつての記憶。
中央塔の構造。
「行けるとすれば……」
その瞳が細まる。
「城の方……」
ミヅキは、
わずかに残された城壁へ視線を向けた。
そして。
意識を集中する。
魔力の流れ。
大地を巡る力。
黒い魔力の奔流に紛れている。
微かな痕跡を探る。
――どこかにある……。
静かな確信。
――必ず……。
月の王国の魔光石へ繋がる道が。
だが。
まだ見つからない。
ドラゴンは上空を旋回し続ける。
その下では。
レグルスとエクリシウスの戦いが続いていた。
残された時間は少ない。
それだけが確かだった。




