第118話 残された可能性
影が太陽を喰らった。
昼間だというのに。
世界は薄暗さに包まれていた。
空を覆う黒い影。
不気味な静寂。
レグルス。
リオラ。
ミヅキ。
三人は遺跡の中心部へ戻っていた。
人々もまた、
空を見上げている。
ざわめき。
不安そうな表情。
誰もが異変を感じていた。
その時だった。
メルクリウスが、
三人の姿に気づく。
急ぎ足で駆け寄ってきた。
「アウローラ様」
空を見上げる。
「これは、
いったい……」
その表情には、
隠しきれない緊張が浮かんでいた。
リオラは、
黒く染まった空を見上げる。
「エクリシウスの仕業みたいね」
静かな声。
そして。
「もう、
あまり時間は残されていないわ」
メルクリウスの表情が固くなる。
リオラは、
ゆっくりと視線を動かした。
レグルス。
そしてミヅキ。
二人を見る。
「準備が整ったら……」
わずかな沈黙。
「行くしかないわね」
その瞳に迷いはない。
「エクリシウスのところへ」
静寂が広がる。
レグルスは、
ただ静かにリオラを見つめていた。
何も言わずに。
やがて。
夜が訪れた。
空を覆う影は消えない。
昼と夜の境界すら曖昧になったような世界。
遺跡の中心部では、
人々が不安そうに空を見上げていた。
その一方で。
三人は少し離れた場所にいた。
焚き火の炎が揺れる。
レグルス。
リオラ。
ミヅキ。
三人は火を囲むように座っていた。
しばらくの沈黙。
やがて。
リオラが静かに口を開く。
「明日の朝……」
揺れる炎を見つめる。
「出発しましょうか」
その言葉に。
レグルスは小さく目を細めた。
そして。
リオラとミヅキを見る。
「おそらく……」
静かな声。
「俺はエクリシウスに、
勝つことはできない」
焚き火の音だけが響く。
リオラが勢いよく立ち上がった。
「ちょっと!」
驚いたような声。
「どうしてそんな弱気なこと言うのよ!」
レグルスは答えない。
ただ。
ミヅキへ視線を向けた。
「お前なら分かっているだろう」
静かな声。
「俺の魔力が、
エクリシウスに及んでいないことを」
ミヅキは俯いた。
そして。
静かに頷く。
「そうですね……」
小さな声。
「明らかに、
エクリシウスの魔力の方が強い」
リオラの表情が曇る。
焚き火の炎が揺れた。
レグルスは、
その炎を見つめる。
「それでも」
静かな声。
「行かなければならない」
わずかな沈黙。
「お前たちはここに残れ」
炎が揺れる。
「俺が一人で行く」
リオラが目を見開いた。
「ちょっと!」
強い口調。
「どういうことよ!」
一歩前へ出る。
「勝てないって言っておいて!」
怒りとも悲しみともつかない声。
「それで一人で行くって!」
そして。
「あなたが負けたら!」
言葉が震える。
「ここに残ってたって、
私たちだって死ぬんでしょ!?」
沈黙。
焚き火の音だけが響く。
その静寂を破ったのは。
ミヅキだった。
「まだ……」
静かな声。
「反転の円環は、
完成していません」
二人の視線が向く。
ミヅキは続けた。
「エクリシウスへの魔力の流れは止まりました」
わずかな沈黙。
「ですが……」
瞳が細まる。
「まだ最後の鍵があるはずです」
焚き火の炎が揺れる。
「聖地と呼んでいた場所」
静かな声。
「そのどこかに、
月の王国の魔光石があるはずです」
脳裏に浮かぶ。
巨大な穴。
地下神殿。
持ち去られた魔光石。
「そこへ魔力を刻む」
ミヅキは小さく息を吐いた。
「それで何が起きるのかは、
分かりません」
だが。
「可能性はあります」
静かな確信。
「私とリオラさんで、
その魔光石を目指します」
そして。
レグルスを見る。
「その方が」
静かな声。
「レグルスさん一人で行くよりも、
可能性はある」
焚き火が揺れる。
しばらくの沈黙。
やがて。
レグルスが口を開いた。
「そうか……」
小さな声。
炎を見つめる。
「どうなるかは分からないが……」
そして。
静かに頷いた。
「明日の朝、
出発しようか」
リオラとミヅキは、
静かに頷く。
焚き火の炎だけが。
静かな夜に揺れていた。




